黄昏に君を逢う


□私をあなたに縛るモノ
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 いつからか聳え立つ山の上の一本松。其処には神が宿るとされていた。麓の里はその一本松を御神木として崇め、やがて、お社を建てた。其処には神主も巫女もいない。代わりに、一本松の神には七つの尾を持つ狐の神と、翼と尾を持つ妖、そして化け狸がいつも傍に控えていた。いや、正確にはそう言い伝えられていた。
 一本松の神に供物を捧げ祈れば、どんな病や怪我も治癒してくれる。まことしやかに伝わる言い伝えだった。けれど、どんなにその一本松を目指して山を登っても視界に入るのに一本松の元へはたどり着くことが出来なかった。けれど、里の子供は言うのだ。

『朱い着物を着けた男の子』と遊んだ。『緑の着物を着た少年』に書物を読んでもらった。『青い着物の青年』に果物を貰った。

 そして、決まってこう言うのだ。

『朱い男の子』と『緑の少年』と『青い青年』と一緒に、松葉色の着物を着け、美しい羽根の柄をした羽衣で顔を隠す姫様の様な品のある少女が立っていると。少女が手を翳せば怪我は忽ちに癒え、少女が見つめれば忽ち病は治癒してゆくと。

 人はいつしか、少女こそが一本松の神だと話すようになった。
 『朱い男の子』は狐の神で、『緑の少年』は山を守護する狸の妖で。『青い青年』は空を守護する狐の妖だと言い伝えるようになった。
 そして、人はいつしか一本松を御神木にしたお社を『神羽神社』と呼ぶようになり、麓の里は『神羽の里』と呼ばれるようになっていた。





「――ヒーメちゃーん。そろそろ起きるべきだと俺的には思うんですけどー?」
「………………」
「姫ちゃんや。本当に起きよう?俺で起きないなら、タヌちゃん呼んでくるよ?」
「………………………………………おはようございます」

 本来ならば、少女は日の出とともに起きていなければならない。いつの間にか神として崇められ、そう位置づけられてから、少女はなるべくそうするように心がけていた。けれど実際は無理で、日の出から二刻程時間が過ぎてようやっと起きる生活をずっと続けていた。
 少女には、少女に仕える三匹の妖怪がいた。内の二匹は、その強すぎる実力から同属の妖怪たちから『神』の扱いを受けている。特に少女を起こした七本の尾を持つ狐の妖怪――天狐は『四強』の一匹だった。

「おはよう、ソラ」
「……おはようございます、兄様」

 
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