黄昏に君を逢う


□目を逸らすのはそろそろ終わろうか
1ページ/4ページ



  天狐と狸の付き合いは長い。二人はそもそも普通の狐と狸だった。ただ、独りの時間を持て余した天神によって力を与えられ己の意思で使えることを決めたのだ。そんな二人の前にふらりと現れたのが空狐だった。妖狐と烏天狗の合いの子だと聞かずとも二人は理解した。そんな二人に空狐は懐き、気付けば三人は友人の間柄となっていた。
 人の姿を取る時は、三人は天神の姿を模す様になっていた。野良だった空狐も拠点をこの山にし。それでもふらりとその大きな翼で何処かへと飛び立っていく。天狐と狸は、世界中を飛び回る空狐の土産話を聞くのが楽しみになっていった。
 そんな生活に変化をもたらしたのは、やはり空狐だった。道に迷い、森を彷徨っていた男をまだ社らしいものが無かった神羽神社に招いたのだ。そして、それが偶々権力も財力も持て余していた若者で、一晩の宿の礼にと小さいながらも立派な社を建ててくれた。それが、松野松造という男だった。彼は天神との友好の証として、一本の松の苗木を敷地に植えた。それが、神羽神社名物の『千年松』改め『一本松』だった。
 時は流れる。松造の妻である松代が懐妊したと大喜びで松造は報告に来た。それを自分の事の様に三人は喜んだ。無論、天神も。しかし、運命というのは残酷だ。松代は重い病にかかり、当時の医術では手の施しようがなかった。妻の命か、子供の命か。どちらかを取るしかないと医者に言われた松造は泣き腫らし、やつれた姿で天神の元を訪れた。

「…僕が助けることは簡単だ。でも、松代は問題なくても、まだ胎児の子供は僕の力の影響を受けて生まれてきてしまうだろう。それでもかまわないの?」
「――構わない、お願いだ。後生だ。どうか、どうか妻と子供を助けてくれ…!!」
「…約束して。何があっても子供は守ると。手放さないと」

 此処まで身重で病気の妻を背負いながらやってきた友人の願いを無碍になど天神にはすることは出来なかった。もとより、彼は童神からの知り合いだった。けれど、自分が神であるが故にその影響を天神は懸念していたのだ。
 そうして生まれたのが男の赤子だった。世継ぎの誕生に大層喜んだ松造は、天神に敬意を称するために『留松』と名付けた。神により留められた命だ、名前にそれを記すことでこの奇跡を後世に残すことにしたのだ。そして、生まれてきたトド松は天神が懸念していた通り死者や妖怪、神すらも目視することが出来た。それだけではなく、精霊や自然霊の寵愛を受けやすい子だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ