この手はいつだって
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いつも、夢に見る。
俺は今の様に神父で、いつもみたいに迷える子羊に愛を説く。
皆は笑いながら聴いてくれている。喜んでくれる。
俺は沢山の徳を集めなくてはいけなくて、そう……巡回も兼ねて教会を回っている。なんの巡回かはわからない。あくまで、夢の話だ。
「ねぇ、神父さん。僕にも判るように教えてよ」
「フッ……良いぞ、迷える子羊。俺が説いてやろうじゃあないか」
その青年は、同じ男でも、驚くほどに綺麗だった。夢の中でははっきりと見えるのに、起きると忘れてしまう、俺の想い人。そう、夢の中の俺は神父でありながら同じ男に恋をしてしまったのだ。
夢の中では傷だらけの彼を拾う。それが俺と彼の出会い。彼は意識を失っていて、目を覚ますのに三日かかった。
白いベッドで、青白い肌をした彼はまるで蝋人形のように見えた。
美しかった。
意識が戻り、開かれたアメジストの瞳は、ハッキリと覚えている。いつもは黒いのに、月の明かりで紫に輝くのだ、
美しかった。
俺は夢の中で彼に愛を説く。無意識に、愛を重ねる。
最後に、彼に想いを伝えて
「―――――――カラ松!?」
ひどく傷ついた顔で、伸ばされた腕。それを掴もうとして、いつも目が覚める。
「おーい、カラ松。起きろ」
「……ん?………あぁ、すまない。つい、居眠りを」
フッと、意識が消えて目が覚めた。酷く懐かしい夢を見ていた筈なのに、思い出せなかった。
何かに覆われたように思い出すことが出来ない。まぁ、夢なんてそんなものだろう。そう思って、俺は馬車の中で伸びをした。長いこと同じ姿勢でいたせいか、背骨が良い音を奏でた。
「……のどかな村だな」
「そうだね。早く教会に祈りを捧げて、次の街に行くよ」
「せっかくだから、泊まらないか?」
「……嫌だよ。教会さえなければ本当は寄りたくもないのに」
「…?」
俺は一緒に辻馬車に乗っていたチョロ松を見て首を傾げた。此奴がこんなことを言うなんて珍しい。双子として一緒に育ってきたが、此処まで嫌悪を丸出しにするチョロ松を見るのは悪魔と対峙した時以来では初めてだった。
「何故この村が嫌なんだ?来たことは無いだろう?」
「別に、大したことじゃないよ。……ヤバいな。雲が出てきた。ほら、宿が無いか探すよ」
「そうだな」
未だに不機嫌なチョロ松を不思議には思ったが、俺は一緒に宿を探した。だがこの村にはそういったものは無いのだそうだ。これはもう、村はずれの教会に行った方が早いのではないのだろうか。
「チョロ松、教会に行こう。雨風は凌げるし、悪魔を心配する必要もない」
「………まぁ、仕方がないね」