それでも君が好きだから


□はじめまして、カラ松です
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 周りの友人たちが『おそ松さん』にハマっている頃、私はハマってはいなかった。普通にギャグアニメとして見ていたぐらいだ。それが何の因果か知らないけれど、今、私はその『おそ松さん』の世界にいる。仕組みなんてものは知らない。風邪を拗らせて肺炎になって、そのまま死んだら転生したのだ。今でもはっきり覚えている。真っ暗で狭い道を抜け、一息ついたら同じ顔の赤ん坊五人に囲まれていた瞬間を。自分が男で、つけられた名前を認識した瞬間も。

「釣れないね、カラ松兄さん」
「ん〜…釣り、嫌いじゃないけど……いつも釣れないんだよなぁ」
「エサは?」
「ん?なんか……粘土っぽいやつ」
「あぁ、あれ?そういえばカラ松兄さん、虫とか昔から苦手だったね」
「エビものな。フォルムがどうもダメ…」

 そう、しかも痛いで有名な次男カラ松に転生してしまったのだ。そもそも、私は『おそ松さん』しか知らないし『くん』時代がどんなものかも判らない。けれど幼少時代はそれはそれは騒がしかった。今に至っては……やっぱり騒がしい。

「フフ、兄さんってそういうとこ乙女だよね」
「煩いよ、トド松。お前に言われたくないよ」

 私は隣に座って一緒に釣り堀に来た末弟のトド松のジト目で睨む。彼はそれをにこやかに笑って流してしまう。それは私達兄弟の日常茶飯事なので特に気にしないで釣れる気配のない浮きを見つめる。

「……解せない」
「どうしたの?兄さん」
「次男なのに、六子なのになぜに君以外に身長負けたのか……」
「あ〜」

 私達は言わずもがな六子で体格差はあまりない。けれど何故が私の身長が一松より低いのだ。ちなみに微妙に長男のおそ松兄さんが一番高い。順番で言うならおそ松、一松、十四松、チョロ松、私、トド松だ。皆、一センチずつ下に下がっていく。一センチと笑うことなかれ。たかが一センチ、されど一センチだ。

「まぁ、良いじゃない。あんまかわらないよ」
「変わる!そのせいで今日一松に鼻で笑われたし!しかも腕相撲も負けた!」
「……そりゃあ、一松兄さんだもん」
「はぁ?」
「なんでもないよ。こっちの話」

 昔は私に懐いていた一松は、中学二年以降、すっごく冷たくなった。シカトは当たり前。声をかけたら睨まれる。今じゃ、一緒にいるのも嫌らしい。家で二人きりになると舌打ちされる始末だ。原作と違って、カラ松である私は痛い子でもなければナルシさんでもない。だからなのか他の兄弟からのあたりは優しい、というか懐かれている。一番懐いていた筈の一松がいきなり私にだけ反抗期で、氷河期になってしまった。実は結構ショックである。

(昔は、可愛げがあったのに…)

 私が何か至らないことをしてしまったのだろうか。それとも初めから嫌われていたのだろうか……

「……まぁ、嫌わてるならしょうがないか。俺、先に終わるな」
「え?もう?」
「俺にも用事はあるんでね。今日は帰り遅くなるって母さんに言っておいてくれるか?」
「それは、良いけどさ……大丈夫?」
「…何が?」

 私は釣り道具を直しながらトド松の視線を受ける。彼は心配そうに私を見ていた。

「……兄さん、いつも一松兄さんに絡まれたらここに来てるから」
「……うん。まぁ、ね」
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