それでも君が好きだから
□少し昔の話を
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猛烈な違和感があった。どうして私は此処にいるのか、どうして記憶を持って生まれてしまったのか。そのすべてが、五人の兄弟と知らずに線を引く結果になっていた。それを悟られない様に『良い子』と『良いお兄ちゃん』を演じなければならなかった。
お母さんのお手伝いをすすんでやる礼儀正しい子を。
弟達の面倒を見れる優しいお兄ちゃんを。
唯一の兄であるおそ松を支えられる頼りがいのある弟を。
私は子供の頃からそれを自分自身に強制していた。そうでなければ『私』になってしまう。私は『カラ松』として転生したのだから、彼にならければ。でも、私はそこまで【おそ松さん】にハマっていたわけではないから彼の事なんて何もわからない。出来ることはせいぜい男口調で話して、ナヨナヨしない様にすることくらいだ。
「ほんと、カラ松は優等生だよな〜」
「別に、先生の話と教科書見てれば大体理解出来るぞ。お前は落ち着きが無さすぎなんだよ」
小学校から、何故か私は長男と同じクラスになることが多かった。たぶん、問題児である兄弟のお目付け役としてだろう。長男次男、三男四男、五男六男。この組み合わせが学校が比較的に平和になるらしい。
「で、優等生のカラ松くんは喧嘩も出来ると。いやぁあ、完璧超人だね」
「煩い」
私とおそ松は河川敷の、人目につかない場所にいた。ただ、買い物帰りに少年の声が聞こえて降りたら……一松が中学生数人囲まれて何かを必死に守っていたのが見えたんだ。数人の中学生に囲まれて暴行を受けているのが一松だと分かった途端、おそ松は年上の中学生に殴り掛かった。無論、私も。昔、転生する前は…まぁ、荒れていた時期があったので喧嘩は単純になれているだけだった。
「立てるか?一松」
「男なら、お前もやり返せよな〜」
一松は根が真面目で優しい子だった。十四松と一緒によく野良ネコや犬と遊んでいることがある。争い事は出来る限り避ける。暴力になる前にまずは話し合いで解決しようとするぐらい真面目な子だった。ある意味、すぐにカッとなって手が出る私達とは真逆の性格の子だった。
「この子の前で殴ったりしたら、この子が怯えちゃうから…」
そう言って一松が懐から大事に抱えていたものが見えるように両腕の力を緩めた。其処には白くて美人の雌猫が小さく震えていた。ところどころ、インクで汚れた、綺麗な雌猫だった。腹部を見ればこの子が妊娠していることもすぐにわかった。