それでも君が好きだから


□ブレイカーカラ松
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「一松?どうした?」
「……別に何でもない」

 カラ松のアパートは、カラ松のバイト先から歩いていける距離に何もかも揃っているらしい。
 スーパーもコンビニも銀行も、なのに公営住宅並みの家賃であるこの部屋は、所謂『出る』部屋の様で、今まさに俺の目の前に座っている。半透明の、見た目美人な女が。
 髪は茶髪で、目が青かった。肌は白くてパッと見は外人の様にも視える。そう、視えるんだ。今朝の十四松の言葉がつい、頭を過った。

「今お茶淹れるから。紅茶が良い?コーヒーが良い?」
「……コーヒー」
「判った」
《カラちゃん、アタシは紅茶ね♪》
「はいはい。ダージリンのはちみつ入りでしょ」
《やーん☆さっすがカラちゃん!!もういつでもお嫁に行けるわね》
「茶化したら茶菓子無し」
《そんな殺生な!?》
「…………(なんで普通に会話してるの)」

 俺の目の前で、ローテーブルに両肘をついて俺を見ていた女はそのままキッチンに行ってカラ松と普通に会話をしていた。俺はとにかく現実逃避をしたくて案内された部屋を見渡した。
 デスクにはノートパソコンとWi-Fiがあった。デスクのすぐ無数のCDが並び、空のものもあった。適当に引っ張るとそれはアニソンで、また別のものを引っ張るとそれはボカロのものだった。その下の段はKinKiだった。

「……自分でオタクだって言ってたのに、グッズ関係が一つもないのは此処に置いてたからなのか」
《そうよ。ステージ用の曲を編集するのも一人で全部やってるから結局ここに集まっちゃうんですって》
「まぁ、確かに……パソコンとかは家に持ってこなくて正解かも。アイツらが勝手に使ったり壊したりするはずだし」
《フフフ、カラちゃんと同じこと言ってるー》
「そりゃ、六子ですか…ら……」

 普通に話しかけられて、普通に返してしまった。俺はとっさに振り返り青ざめた顔で宙に浮いている女を見上げた。その視界の端に、飲み物を淹れたカラ松が『あちゃー』という顔をして立っていた。

「―――…おいクソ松!!」
「ヒッ?!……なんでしょう……?」

 よほど俺の顔が怖かったのか、一瞬ビビったカラ松は座りながら三人分の飲み物を置いてゆく。俺は女を指さして言った。

「……説明しろ」
「あー、やっぱり視えてたか…レイ子さん強いからね」
「……」
「はい、すいません。説明になってませんね……えっと、レイ子さんはね、この部屋で亡くなったクォーターの女性なんだ。恋人と心中したけど、騙されて自分だけ死んじゃったんだって」
《それからずっと此処にいるのよ。カラちゃん以外の奴らはみんな祟って追い出したけど…カラちゃんは別ね。利害条件が一致したし――…約束したから》
「……約束?」
「うん。レイ子さんが成仏出来る様に供養して上げる約束」

 そういったカラ松は自分で作ったらしい茶菓子のクッキーを頬張っていた。

 
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