それでも君が好きだから


□紺藍、二藍、交想色
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 その日は唐突にやってきた。

「……カラ松」
「ん?どうかしたか、一松」

 今日の夕飯はさっぱりしたものにしようと、冷やし中華と豚バラとキャベツの冷しゃぶを一松と作っていた。俺は薄焼き卵を焼いていて、一松は冷しゃぶ用に大根おろしとトマトおろしを作っていた。トマトおろしってさっぱりしてて俺は暑い日は大根おろしとよくセットで出している。因みに、このWおろしはトド松の好物でもある。見た目も可愛いし美容にも良いらしい。いや、俺はただ普通に高血圧予防と夏バテ対策でしか作ってないんだけどね。

「…明日って、バイト休みだったりする?」
「うん。今月はバーテンのシフトは少ないよ。LIVEに集中したいから」
「…LIVE、今月なの?」
「いや、来月頭の最初の週末。土曜日が俺とおそ松が出る日」
「……見に行きたいな」
「そう言うとおもって、皆の分のチケット貰ってきてるし、お前らの分の飲み代も無料にして貰ったからジャンジャン飲んで良いよ」
「…太っ腹だね」
「そ?店長が自分で言ったから、俺は知らない」

 俺は薄焼き卵を錦糸卵にするために包丁を握った。一松はWおろしを仕上げて冷蔵庫に入れていた。トマトおろしと大根おろしの水分を調整するために、大根おろしは基本絞る。余った大根の汁で、一松は俺直伝の和風ドレッシングを作り始めていた。

「…あのさ」
「ん?」
「二人で、出かけない?泊りで」
「――…え、泊り?」
「明日とか…ダメ?」
「いや、特に、予定は…ないから……良いけど」
「じゃあ、明日、出かけよう」
「う、うん…」

 慣れた手つきでドレッシングを仕上げた一松はとっととそれを居間に持って行ってしまった。ドレッシングの具合をおそ松に確認させに行ったらしい。俺、此処にいるのに。

「…え、ってか…お泊りデート…って」

 それってつまり、あれか。あの…その、あれ、だよ。一松は、やっぱり、シたいってこと……だよな?
 …え、あれ……?俺、このあとどうやって一松と顔合わせればいいんだ?

 錦糸卵を仕上げて、そのまま冷やし中華の具を黙々と仕上げていきながらも、明日何を着て行こうとか、一泊だけなら別に着替えとかいらないよなとか…頭は全く別なことを考えていた。それでもちゃんと夕飯はできたから俺って偉くね?誰か褒めてくれ。いや、やっぱりいいです。なんか空しい。

 その日、俺は一人で変に一松を意識してしまってまともに顔を見ることが出来ず、銭湯に行くのもいつもなら一松と並ぶのに、今日はトド松と並んで歩いて行った。


 
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