ごった煮


□猛虎、竜王、降臨
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 俺の名前は、松野おそ松。松野家長男。俺には五人の弟がいる。同じ学年にな。そう、俺達は六子なんだぜ、凄いだろ?
 小学校の頃は皆似たようなものだった。根っこの性格は皆同じで、年齢が上がるにつれて徐々に個性が出てきた。そうなるとやっぱり性格の違いが生まれてくる。特に次男のカラ松は、中学になると俺達と線を引いているように感じることが増えた。
 傍から見ればそれは感じないぐらいの小さな違和感。現に他の弟達にそれとなしに聞いても気づいているのは俺だけみたいだった。

「おそ松、待てよ!!それぐらいにしとけ。死人出す気か!!」
「…あれ、なーんだ。もう終わりかよ…つまんねぇ」

 俺はその苛立ちを本人ではなく、周りにあてることで沈めていた。いつから喧嘩するようになったのかは覚えてない。たぶん、上級生に「目立ってんじゃねぇ」って絡まれた時かな。あの日は六人全員で帰ってる日で、全員で返り討ちにしたけどさ。いや、男の六子だぜ?毎日が喧嘩みたいなもんだったし、自ずと俺達は喧嘩強くなってたんだよ。
 俺は掴んでいた相手の頭をパッと話して手をパンパンと叩く。後ろからはドサっと投げ捨てる音がする。振り返ればチョロ松が先輩を壁に向かって投げているところだった。

「弱すぎて話になんねぇ」
「おそ松に勝てる奴なんていないだろ」
「まぁね。俺は長男だから」
「……まぁ、ブちぎれたカラ松は別格だけど」
「…あれはずるい。夕飯抜きにすんだから」

 そう、中学に上がると、比較的にカラ松が夕飯を作ることが多くなった。食べ盛りの男が六人。それに両親の分もとなるとかなり大量の食事の量になる。母さん一人で作るのを不憫に思ったらしい。しかもこれがまた美味いんだ。俺達兄弟は完全にアイツに胃袋を握られている。
 取りあえず俺達は絡んできた先輩を放置して鞄を拾った。家に帰る途中で喧嘩を売られたんだ。もう慣れっこだ。まぁ、さすがに同じ学校の同級生からは売られなくなった。よく来るのは上級生と他校生。これだけ来られるといい運動になる。

「入学してわずか三ヶ月で俺達六子がここら一帯で最強になったな〜」
「ま、俺達に喧嘩売る方がバカなんだよ。行こうぜ、おそ松。夕飯に遅れるぞ」

 家に帰るために歩き出すチョロ松を慌てて追いかける。一緒に肩を並べて歩くと、此奴の甘い匂いが鼻を掠めた。同じ物食って、同じシャンプーを使ってる筈なのに…チョロ松は俺より細い。
 最近、俺はおかしい。チョロ松を見ると胸が騒ぐ。基本は気にしない様にしているけど、気を抜くとこうして意識してしまう。
 俺は頭を軽く振って家に向かってチョロ松と競争しようと持ち掛けた。家に帰ればカラ松が夕飯を作って待っててくれている。天然な十四松はカラ松が作ったおやつを頬張っているだろう。トド松はオシャレ講座をカラ松に聞いているかもしれない。カラ松は六人の中で女が好むものに一番詳しいから。一松は甲斐甲斐しくカラ松の手伝いをしているんだろう。アイツは一番カラ松に懐いているから。

 けど俺は喧嘩なんてしないで早く帰ればよかったと後悔した。チョロ松と二人で俺達は信じられないものを見ることになる。きっと、俺達の内のどちらかが先に帰っていれば、ああはならなかったはずだ。



 一松が、カラ松を泣かすことは、きっとなかった。
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