ごった煮
□一松さんの理性ポイントはオーバーキル
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松野おそ松は自分の軽はずみな行動を後悔していた。彼が後悔することは珍しくはないが、今回ばかりは『しまった』と思わずにはいられない。まさか此処までの破壊力だったとは…
松野一松、トド松、チョロ松、十四松は、今目の前にいる兄に頭を抱えていた。こんな兄知らない。聞いたことない。見たことない。
「いちまつぅー」
「…な、なに」
いつも涼しげに凛と佇んで、一歩後ろから兄弟を見守っている頼りになる次男、松野カラ松。兄というより『姉』に近い雰囲気で兄弟を見守っている彼は、今此処にはいない。
「ハグハグしよ?」
「ん゛ん゛っ?!」
「抑えて、抑えて一松兄さん?!」
「トッティー」
「…な、なぁに?カラ松兄さん?」
目の前にいる兄は、恐らく酔っている。しかも今まで見た中で一番酔っている。此処まで酔った次男を自分達は見たことがない。
「いい子、いい子♪」
「え?!え、なに?!」
「フフフ〜、みんないつもいい子だから、はなまるぴっぴ、あげるぞ☆」
「〜〜〜〜〜〜〜っ?!」
「トッティ、あとで今の写メ頂戴」 カラ松は開いた両手を見せたあとにハートの形を作り、『ぴっぴ』に合わせてその両手を左右に振った。勿論、小首も合わせて傾げている。成人男性がやればイタイだけなのに、その可愛いさと破壊力にスマホは向けながらもトド松は後ろに倒れ込み畳をバシバシと叩き続ける。
「これ、動画だから」
「ナイス」
一松とトド松は互いに親指を立て合う。そもそもどうしてカラ松がこんなに酔っているのか。時間を昼前に遡る必要がある。
高校のクラス同窓会をやると、2ヶ月前に連絡があり今日がその当日だった。クラス同窓会なので出掛けるのはおそ松とカラ松だけである。一松はのんびりと猫と戯れながら居間に入ってきたカラ松を見上げた。
「お土産は何がいい?」
「…なんでもいい。早く、帰ってきてくれるなら」
一松とカラ松は付き合っている。勿論六つ子だし同じ顔で世間的に受け入れられない関係だと理解している。しているが、それでも一松はカラ松を選び、カラ松も一松を選んだ。兄弟なのでお互いの殆ど全てを理解している。きっと別れることは有り得ないだろう。両親には悪いことをしたとも思うが、それでも…彼を想う気持ちを止めることが出来なかったのだ。
「…なるべく早く帰るよ」
「…うん」
カラ松と付き合うようになった一松は、昔の性格に戻りつつあった。元来彼は根は真面目で優しい性格だ。そして三人いる兄の中で一番カラ松に甘えていたのも彼なのだ。そもそもはカラ松が一松を甘やかしていたのだがどっちもどっちだ。
「ごめ〜ん。おまたせ〜」
「遅いぞ、兄貴。じゃあ、行ってくるな」
「…うん、行ってらっしゃい」
先におそ松が玄関に向かうのを見たカラ松は、あとを追うように居間を出ようとする。襖に半身を出してから、一瞬、立ち止まった。一松は首を傾げながらカラ松の背中を見つめていた。何か忘れ物だろうか。
一松の心配を余所に、カラ松は徐にジャケットのポケットからスマホを取り出すと肩越しに一松に振り返ると。ニカッといつもの笑顔を作ったカラ松は、スマホに取り付けている一松に似た猫のストラップを顔の前でゆらゆらと揺らす。
一松は更に首を傾げる。コイツは何がしたいんだろう。ジッと見つめているとカラ松はその猫のストラップに小さく口付けると小さく手を振って行ってしまった。
「──…っ?!///ι」
一松は意味を理解するとそのまま顔を隠すように膝を抱いて踞った。顔が熱い。きっと今は耳まで赤いに違いない。時々あーしてイタイことをやって来るから困る。それも不意打ちでやるから質が悪い。元々カラ松は兄弟の中で一番モテるのだ。同じ顔でもカラ松は質が違う。トド松をメッキに例えるなら、カラ松は天然素材なのだ。子供の頃から優しくて、でも甘やかしたりしない厳しさも持っている。おそ松とは違う種類の信頼が彼にはあるのだ。だから誰もカラ松には適わない。兄弟全員、カラ松がスキなのだ。兄として弟として。
そんなカラ松の恋人になれた自分はなんて幸せなのだろう。聞けばお互いに恋愛対象として意識していた時期がほぼ同じだった。もっと早く想いを伝えていればきつく当たったり暴言や暴力を奮うことはしなくてすんだのに。あの頃はカラ松のことが好きで、好きで好きで大好きで。それがつらくて。兄弟というだけで想いを伝えることが出来ない苦しさから逃げるように彼を避けた日々。どんなに暴言や暴力を吐いても「俺は一松を信じてる」「悪いのは、全部俺だから」「一松が優しいって、判ってるから」そう言って、いつも笑って受け止めて赦してくれる。