ごった煮


□ちゃんと給料三ヶ月分の奴を用意しろよ?
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 松野家の長男として産まれた俺は、きっと世界一の親不孝者だと思う。長男としての責務は、果たせそうにないから。

 家、仏壇、墓を護っていかないといけない筈の長男が実の弟を愛してしまって、あまつさせ恋人ととして共に生活をしていると知ったら父さんたちはきっと倒れてしまうのではないだろうか。それでも、俺はチョロ松の手放すことが、出来なかったわけだけど。

 孫の顔は見せてあげられならい。結婚も出来ない。あの扶養家族面接の件が時々頭を過る。母さんは、孫が欲しいんだよな。望んでるんだよな。それを叶えてあげられない長男で、息子で……ごめんな。


「うわぁ……綺麗だなぁ」
「おー」

 俺だって、時々ナイーブになる時がある。
 六つ子の長男なんてやってればそりゃあメンタルは鍛え上げられるよ。それでも、色々、考える。弟達はいつの間にか個性を身に着けていて、俺だけが子供の頃のまま取り残されて……
 どれもこれも、そうだった。結局は俺が、彼奴らに依存していて彼奴らの自立の妨げになっていただけだ。でも、怖いんだ。一人が。どうしても、一人になるのが……

 カラ松程じゃないけど、俺だって暗い所が苦手だ。あと、狭い所。口に出したくない、過去の傷。

「昼寝してたと思ったら急に飛び起きて『ドライブ行こう』って言い出すから何なんだって思ったけど、来てよかった。ありがとう、おそ松」
「どーいたしまして。たまには良いだろ?こういうのもさ」

 チョロ松の言う通り、俺達は今二人だけで海に来ていた。
 車を借りて適当に走らせて、子供の頃に良く遊びに来ていた海へ。あの頃は広くて大きく見えた浜辺も、存外に小さかったんだなと感じた。

「……ね、少し歩こうよ」
「波打ち際まで、じゃあ競争するか!」
「…え?ちょっと、狡いよ!!」


 チョロ松が了承する前に靴と靴下を脱いで走り出す。潔癖症のチョロ松は一瞬ためらったけど、すぐに俺の真似をして追い掛けてきた。そしてすぐに追い越される。先にたどり着いたチョロ松はザパザパと海に入り、そのまま海面を蹴り上げて俺に向けて水飛沫を放った。俺はそれを慌てて避ける。それでもチョロ松の攻撃の手は緩められなかった。俺もムキになって両手で海水をすくってチョロ松に向けて放った。
 オレンジ色だった空が、真っ赤に染まるまで馬鹿みたいにはしゃいで海水を掛け合っていた。笑いながら肩で息をする。お互いに膝に手を着いていた。泳いだわけじゃないのに、半分ほど濡れてしまった。


 
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