ごった煮


□誕生日だからって以下略! 2
1ページ/5ページ



 パラレルワールドの世界の松野家に来て、思ったことがある。一松だ。こんなにも判りやすい。此奴次男にたいして拗らせすぎだろ。
 俺は例のトリップ事故の日から六つ子達と寝食を共にしているがそのお陰かこちらの一松……もう此処では四男って呼ぶことにする。四男の異常なまでの次男に対する執着は俺の一松の比ではない。だって長男や末弟が近くに寄ると睨むのだから。
 因みに、俺は彼に睨まれたことはまだない。何故って、多分俺が『カラ松』だからだろう。それ以外に理由は思いつかない。

「ソラ!!これから一緒にカラ松girlsを探しに公園に行かないか?」
「んー…そんなことして後で一松にバレた時のお仕置きが怖いから、やめとく」

 キッチンに立って夕飯の仕込みをしていると次男にそう声をかけられた。俺が松野家にお邪魔するようになってから、俺は自然と此処で夕飯を作る様になっていた。今日は、オレンジ煮込みだ。なんとなく、作りたくなったのは、別に一松に逢えなくて寂しいとかじゃなくて……ごめん、嘘。一松の事を考えてたら自然と作り始めていた。彼奴らちゃんと食べてるかな。一応、おそ松は俺の次に料理上手いんだけど、基本的に作らないし、そもそも彼奴らはおそ松が料理できること覚えてるかな。

「…ソラは、一途なんだな」
「んー…俺は、自分がされて嫌なことはしないし、されて嬉しいことをやる主義だから。ただそれだけだ」
「…成程、愛されるより愛したいと」
「…なんで今のでそう捉えるんだよ。間違ってはいないけど……そういうカラ松は、どうなんだ?」
「―――……」
「…この前も言ったけど、お前は一松とどうなりたいんだ?どうありたいんだ?」

 デリバリーコント未遂でうやむやになってしまったけれど、恐らくカラ松は一松が好きなのだろう。恋愛感情込みで。本人はちゃんと自覚はしているようだ。だからこそ、良い兄貴でいろうとするのだろう。だって相手は弟で、同じ顔だ。

「…仮にな、俺が一松に想いを伝えるとしよう。ソラが一松だとして、どう思う?」
「―――…そうだなぁ」

 カラ松はいつも鏡を見つめている。頻度は多いし長い。自他ともに認めるナルシストだ。俺も鏡をよく見るが、それはあくまでも確認のためだ。女の内面が顔に出てないか、とか。ちゃんと男らしいか、とか。その確認の為。別に自分が好きなわけじゃない。此処は大事な部分だからもう一度言うけど、俺は自分が好きなわけじゃない。

「…『俺が比較的に六つ子の中でもお前に似てるからそう錯覚してんだろ』かな」
「フッ……正解だ」
「―――あ?」

 玉ねぎの皮を袋に入れて櫛切りにして、それを水を入れたボウルの中に入れていく。人参を取り出して皮を切っていると隣でカラ松が手を洗いだした。見れば自分の顔がプリントされている青いエプロンをいつの間にか着用していた。どうやら手伝ってくれるらしい。取りあえず俺はクソエプロンから顔を逸らした。

「…実はな、その…ソラが来る少し前に、告げてはいるんだ」
「………は?」
「だから、その……『一松が好きだ』って…」

 俺は人参を乱切りにしている手を止めてカラ松の顔を見る。カラ松は切なそうに微笑んでいた。
 嘘だろ。カラ松は告白していたのか。それで、何?返事が俺が言った奴なのか?こっちの一松は何をしているんだ。俺に天然本物の色松を見せないとかマジなんなの。何の焦らしなの。俺、前世は腐ってたからそういうの焦らされるの堪らなく堪えるぞ?!

「……一松は、正確にはなんて言ったんだ?」
「…『ありえない』と」

 俺が乱切りにし終えた人参を、耐熱ガラス製のボウルに水をと塩を少々入れてレンジに入れてボタンを押すとカラ松は包丁でオレンジの皮を剥き始めた。俺はその皮についたワタをスプーンで取りながら、カラ松の話に耳を傾ける。

 一松には、こう言われたらしい。

『ありえない。鏡見てみろよ。認めるのはクソ嫌だけど、僕は兄弟の中でもアンタに顔が似てるから、自分大好きなアンタは僕が好きだって勘違いしてるだけだ。大体、僕が好きって言うくせに、いつもカラ松girlsとか言って逆ナン待ちしに行ってるくせに何なの?僕のことバカにしてるの?』

「Non、カラ松……それは、お前が悪いぞ」
「そう、なのか?」
「逆の立場で考えろ。仮にお前が一松として、毎日逆ナン待ちついでに散歩してる奴に『好き』って言われて信じられるのか?一松の性格を考えてみろ。彼奴は、あーだけど、根は真面目で優しい。それはお前も判ってるだろ。それに、優しいからこそ傷つき易い。だから疑い深くなったのに……」

 皮を剥いたオレンジ四つをカラ松に渡して絞る様に頼みながら、俺は熱したフライパンにオリーブオイルを引き、弱火で玉ねぎを炒め始める、カラ松は無言でオレンジをひたすら搾り続けている。玉ねぎがはちみつ色になるまで炒める間、俺は目線を外さずにカラ松に追い打ちを掛ける。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ