ごった煮


□誕生日だからって以下略! 4
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 先月現れた、並行世界とやらのカラ松。あのクソ松の別次元の存在だと言った男は外見は、髪が少し長いぐらいで殆ど彼奴と同じだった。中身はと言えば『イタくない』奴だ。そう、本当に、イタくないカラ松。それだけな気がする。自分でつけた呼び名が『ソラ』で、それを普通に皆は受け入れている。僕以外の皆は既に此奴の存在を普通に受け入れている。けど、僕は違う。そうは、いかない。否、出来ない。

「――イチ?お昼何が食べたい?」
「え…?」
「今、俺とお前しかいないからな」
「…そっちの僕は?」
「兄貴に引きずられてデカパン博士の所に行ったぞ。因みにカラ松はいつものgirlsを探しに出かけたな」
「――…そう」
「と、いうわけで俺とお前しかいないから昼飯のリクエストを聞いてみたんだ。特にないなら、冷やしそうめんにしようかと思うんだが」
「――…うん、それでいい」

 イタくないカラ松は、普通に普通の兄貴だった。皆が言う。こっちのカラ松が良かったと。その瞬間、クソ松と此奴は全く同じ表情をしたのが印象に強く残ってる。

 傷ついた表情をした。寂しそうに儚く笑った。弄られている側と褒められている側が全く同じ表情をした。どうしてか、なんて…考えたくなかった。

 …クソ松は、愛されたがりだ。愛された分を、そのまま愛する人間だと思う。何もしなくても、僕達弟に慕われているおそ松兄さんを敬愛しているし、尊敬しているのも知っている。だから、おそ松兄さんとは違うタイプの兄になろうとしているのも、知っている。そして、それをおそ松兄さんが許容しているのも知っている。二人には、二人だけの線がある。僕達がどんなに手を伸ばしても届かない線が。
 そして、それが…僕は嫌だった。それを思い知るたびに軋む胸が。痛む心臓が。叫ぶ心が。泣きそうになる自分が。それは必ずクソ松がいる時にだけなる。それも、嫌だった。
 ぼんやりとそんな事を考えながら親友を撫でていると卓袱台に冷やしそうめんが用意される。そして、ボイルしただけのほぐされたササミ。それに首を傾げていると、ササミが乗っている皿をソラは床に置いた。
「エスニャンの分だ。皆には、内緒だぞ?」

 悪戯っ子の様にソラが微笑みながら言った。それは、先月クソ松が僕にしたことと同じだった。用意したおやつも同じ。ウィンクするタイミングも人差し指を立てるタイミングも。なのに僕の胸は軋まなかった。心臓は痛くならなかった。泣きそうにもならなかった。僕はそのことに首を傾げながらも親友を膝から降ろした。そして卓袱台に、ソラと向かい合って座る。薬味以外に錦糸卵やハム、キュウリも細切りにされていた。良妻かよ、お前。そう思いながら錦糸卵を箸でそっと掴んでみる。一本ずつ綺麗に取れた。もう、逆に怖いんですけど。料理カンストかよ……

 
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