黄昏に君を逢う


□目を逸らすのはそろそろ終わろうか
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 「大きくなったね、留松」
「うん、天神様のお陰だよ」

 何かあるたびに、留松は天神の元を訪れていた。天神も、我が子の様に留松を可愛がっていた。

「天神様!!天狐の奴を見ませんでした?!」
「天狐?さぁね、まだ寝てるんじゃない?」
「彼奴、今日は一緒にキイチゴ摘むって言ったのに…」

 ぶつくさと口の中で文句を言いながら、狸がチョロチョロと敷地内を先程からウロチョロとしていた。留松にとってもはそれはもう見慣れた光景だった。天狐は、ぐうだらな性格だ。昼だろうと夜だろうと寝る。それとは真逆で狸は規則正しく起床し天神の手伝いをしていた。

「――…」
「どうしたの、留松」
「狸と天狐には名前がないのかなって思って」
「そうだなぁ……別に、困ってはいないから」
「…僕がつけたら怒るかなぁ?」

 留松は大きな瞳をキラキラさせながら天神を見つめた。天神は小さな頭を撫でながら自分で聞いてごらんと促す。留松は嬉しそうに頷いた。

 そうして狸と天狐には名前が付けられた。それが『おそ松』と『チョロ松』だった。二人にとって、名前を付けた留松は特別な存在になった。愛し合っていても子供が出来ない自分達にとって、彼は、子供のような存在になったのだ。たとえ、短い時間だけであったとしても。



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「そう、そんなことがあったんだ」
「…初耳だぞ、天狐」
「まー、聞かれなかったし。お前平気でニ〜三百年帰ってこないときもあるからね」
「…留松も、長く生きなかったからね」

 スヤスヤとソラの膝枕で眠る十四松を撫でながらイチは笑う。それに釣られてソラも笑った。こうして見ると二人は夫婦に見えるのに、未だに恋愛感情はないというのだから不思議だと三人は顔を見合わせる。ソラはそんな三人の心情など知ってか知らずか十四松を寝かせるとイチに声をかけた。

 
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