この手はいつだって


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 僕達は悪魔だ。それでもこうして教会に棲んで神父の真似事をするのは別に大した理由はない。二人とも、僕に付き合ってくれているだけだ。僕が神父ごっこを止めれば、終わる。でも、僕は止めれなかった。

「シスター・トッティー!!遊んでー!!」
「あ、子供たちだ!!僕、行ってくるね!!」
「夕方の祈りの時間までには帰って来いよー」

 すっかり神父姿が板についている(でもいつも着崩してる)おそ松兄さんは、村の子供たちに迎えに来られたトド松を見送ると、トド松が持っていた荷物の中を見ながら僕の隣に並んだ。

「お!い〜ねぇ、林檎だー」
「今日の酒の摘みにしようか、それともグラニテにしようか?」

 僕達は、他の悪魔達みたいに魂を食べたりしない。ぶっちゃけ、別に食べなくても生きていけるし、魂より普通に人間たちが食べててるものの方がおいしい。魂食べても力に関係ないから、必要ない。でも、悪魔達は必要らしい。僕達には、要らないけど。

「どっちでもいいぜ?お前、料理は出来ないけどデザートは得意だもんな」

 おそ松兄さんはそう言うと林檎を一つ取って、僕の荷物も持って教会の中に入って行った。つまり、今日は兄さんが夕飯を作るということだ。そうなると僕は暇になる。僕は自室に行って、彼奴のギターを持って薔薇園に向かった。
 此処は、彼奴の好きなバラが咲いている。不思議なことに色は五色。赤・黄・緑・桃・紫。この五色の薔薇が咲く時期になるといつも満開になった。僕は、魔力を使ってその薔薇をいつも咲かせている。そして、彼奴が好きな色の薔薇を作った。青だ。

(偶然かな……赤と桃と紫って僕達の好きな色なんだよね……)

 薔薇園、といっても、その樹が並んでるだけで、別に大したものじゃない。それでも僕は此処が好きだった。今は古びてしまったベンチ。あそこでいつも、彼奴と他愛のない話をしていた。僕がした質問を、彼奴が彼奴なりの解釈と言い廻しで応える。そんなことを、していた日々は、もう二百年も前なんだ。

「…今日は、何を歌おうかな」

 いつも、この時間に彼奴と逢っていた。彼奴が死んでからは、その時間に彼奴のギターを弾きながら唄うのが僕の日課。時間にしたら一時間か二時間くらいの時もある。歌わないでギターだけを弾くこともある。でも、
それが、僕の日常だった。


 なぁ、カラ松。今日も世界は普通だよ、
 あんたはいつも「この美しき素晴らしき世界」とか、言ってたけどさ…
 世界じゃなくて、アンタが綺麗だから、アンタが見る世界は綺麗だったんじゃない?

 だって、さ。



 僕は、アンタがいないこの世界を


 

 美しいとは






 思えない。

 
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