この手はいつだって


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 髪は、癖なのか僅かに跳ねててふわふわしていそうだった。青白い肌は陽の光を浴びて、妖艶に彼の引き立てていた。それを覆うように神父服を纏っているが、神聖なはずのその服が、見慣れた簡素な服が、何故かとても淫靡に視えた。そして、何より……黒い筈の双眸が、現れた月光に照らされて紫色に輝いている。

 心臓が、跳ねてうるさい。
 
「………あんた、だれ」
「カラ松、だ。弟と、旅をしている……神父で…」
「……そう。"弟"…ね」
「お前は、おそ松神父が言っていた、神父の方の弟か?確か、名前は『一松』と言ったか」
「――――…そう、だけど」
「すなまいな。一晩宿を借りに来たんだ。嵐が来そうだし」
「………そう」
「よろしくな!」

 一松神父は一度だけ、俺を視界に入れた後は全く俺を見なくなった。そしてそのまま俯いて会話を続けていた。

「…あ、そのピアス」
「…え?」

 俯いて、顔を背けられて初めて気づいたクロスのピアス。それを指さしながら俺は自分のピアスが視える様に首を向けた。

「トッティに聞いていたが、本当にお揃いの様だな。見てくれ!!」
「!?」

 一松神父に良く見える様にすると、息を呑む音が聞こえた。不思議に思って見上げると、彼は呆然と俺を見つめて涙を流していた。

「い、一松神父?!」
「……なんで、あんた………」
「い―――」

 抱いていた猫が腕から降りても、それに気づかない一松神父は、ゆっくりと俺のピアスに触れてから、俺を抱き締めてきた。俺よりも細い体で、でもしっかりと、強く。


 また、心臓が大きく跳ねた。


「…………り」
「…え?す、すまない。よく聞こえなかった」
「…『はじめまして』」
「―――…はじめ、まして」


 その、はず…だよな?




 彼に逢ったことは無い筈だ。なのに、心が甘く切ない痛みと共に叫んでいた。







『久しぶり』、と――――…
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