ごった煮


□誕生日だからって以下略! 2
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「逆ナン待ちしに行く奴の告白を、マジに受け止められるか?」
「―――――」
「…Noに決まっているだろ。まぁ、自業自得だな。そうやって博愛主義を気取ったら、いざ本命に告白した時信じてもらえなくなるんだ」
「………でも、俺は――…」
「…知ってるよ。一松を傷つけたくなかったから、逆ナン待ちしに行ってたんだろ?まぁ、モテたいってのも本音だろうけど」

 はちみつ色になった玉ねぎに白ワインを適量入れて火を強火にする。それにレモン果汁を少々入れて更に炒める。手羽先のハーフを入れてある程度火が通ったら、俺の隠し味であるコアントローを掛けてディアブロをした。隣でカラ松が「おぉ!!クールだぜ、ソラ!!」と目を輝かせた。俺はそれを軽く聞き流して、さっきワタを取っていたオレンジの皮を一ミリ以下の千切りにするようにカラ松に指示を出した。カラ松は軽快に頷くと慣れた包丁さばきでオレンジの皮を切っていく。どうやら日常的に料理はしていたらしい。俺はそれを見ながら微笑んで、カラ松に絞らせたオレンジの果汁をフライパンに入れた。チキンコンソメと粗びき胡椒を適量いれて中火にする。バジルとローズマリー、それと、ローリエも一緒に投げ入れた。灰汁が出てくるまで中火でコトコトと煮込み始める。
 俺は、似たようなことをしていた時期がある。まぁ、俺の場合は家にいなかっただけだけど。昼間はボイトレとダンススタジオ、あとジムに通い、夜はバーでバイトをする。そんな生活をして一松を遠ざけていた。学生の頃は、部活にさせ入ってしまえば良い。そうすれば簡単に関わる時間を減らすことが出来たから。けれど社会人はそうはいかなかった。俺が考えたのは、一松の性格を利用することだった。
 一松はインドアだ。野良猫の様子を見に行く以外では基本的にずっと家にいる。時々、おそ松や他の兄弟に誘われてパチンコ屋や競馬には行くけれど本人は余り騒がしい場所を好む性格ではないので自発的にはいかない。だからこそ、俺は敢えて外へ出ていた。そうでもしないと、俺の胸がはち切れそうだったから。だってあの頃は嫌われてるって思ってたし。

「―――…やはり俺は、一松に嫌われているのだろうか」
「……ッ」

 シュン……と、まるで雨に濡れた子犬の様に落ち込むカラ松から無理やり顔を背けた。ヤバい。なんだこれ。此奴、母性本能を無意識に煽ってくるぞ?!庇護欲掻き立てられる、ヤバい、なんかあのクソエプロンが可愛く見えてきた。ヤバい、目を覚ませ、オレ!!
 そう自分に言い聞かせて、俺は灰汁を取ったチキンのオレンジ煮込みの味を調えていく。さっき切ったオレンジの皮を入れて、俺の中で合格ラインに達すれば、俺は火を止めて一度それを覚ます。蓋に、メモを書いて貼り付ける。このフライパンの中身と重さを書いたものを。これで減っていたらおそ松から順に全員締め上げるという注意書きだ。俺の六つ子はこうでもしないと勝手に食べるので(特におそ松が)、勿論ここの六つ子も信用していない。するわけない。おそ松を筆頭にした松野家六つ子は基本的にクズなのだから。

「あとは一度冷ますだけだからこのまま放置でいいから、散歩しながら悩み聞こうか?」
「……ソラ…!!」
「多分、トド松に相談してるんだろう?なら彼奴も呼ぼうぜ?三人居れば文殊の知恵って言うし」
「三人入れ歯もんじゃの家?」
「ごめん、俺が言い間違えた。"寄れば"だ、寄・れ・ば」
「―――ヨレ歯…!?」
「刺すぞこの小学生脳筋松」

 結局、俺はカラ松を放っておくことが出来なくて悩み――と、いうかカラ松の恋に協力することにした。俺から見て、一松も好きだと思うから何か切っ掛けがあればいいと思うんだ。
 幾つかの策を頭の中で組みながら、俺は家の電話からトド松に連絡する。トド松は直ぐに出てくれた。丁度囲碁の対局が終わったところだと言われた俺は今までのいきさつを簡単に話した。

《――ソラ兄さん、ありがとう!!正直僕もどうしていいか判らなくなってたんだよ》
「まぁ…帰る方法が見つかるまで暇だしな。ついでにカラ松のクソセンスを調教し―――…」
《…ソラ兄さん?》

 俺は此処でふと、あることに気付く。

 俺の一松はドМでドSだ。主に、俺に対して。他の兄弟には蔑んでもらうと喜ぶが俺にはアタリが強かった。恋人になった今はそのアタリはなくなった代わりに意地悪になって、その分甘くなった。謂わばツンデレだ。そして、一松は俺に仕込むのが楽しがってる節がある。まぁ、仕込むってのはその、ナニのことだけど……

『俺色に染める』それに一番快感を得ているような気がする。

 もしかしてもしかしなくても、こっちの一松もそうなんじゃないか?

 そう思った俺は、カラ松の全身を見ながらトド松に提案した。

「あのさ、トッティ?」
《なに?》
「俺、試したいことがあるんだけど、そのためにまず情報が欲しいんだ。一松のこと、詳しく教えてくれないか?」


 
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