短編
□花占い
2ページ/2ページ
聞こえてきた歌声にジャックハートは手を休めて耳を傾ける。
全ての出来事がイかれたこのワンダーランド。
小鳥も歌えば、花も歌う。
歌なんて日常茶飯事なのに、なぜか彼女の歌声は流れ込むように特別大きく聞こえてくる。
だからといってうるさくもなく優しく心を落ち着かせるかのように聞こえる歌声は彼女の性格そのものを表しているようだ。
「ルビー〜
バラを塗るのはいいけれど、摘むなよ
数が足りないとなると君まで首をはねられるぞ」
『あら、残念。
せっかくこんなにも薔薇があるなら花占いでもしようと思っていたのに。』
ジャックハートに声をかけられてルビーはしぶしぶ手に取ったバラに赤を塗る。
ルビーはジャックハートのリクルーター仲間で普段はヴィランズ界で働いている。
しかし、ハロウィンも過ぎ只今ヴィランズ界はお暇なようでジャックのいるワンダーランドに手伝いに来たのだ。
「それで、"花占い"ってなんだい?」
聞いたことがない言葉にジャックが首を傾げる。
『知らないの?恋占いの一つで花びらをちぎって占うのよ』
「ワーオ!おしゃれな占いだね。
じゃあ僕等もやってみようよ」
とジャックは帽子から一輪の花を取り出してルビーに渡す。
『…本当に何でも出てくるのね。
あなたの帽子は。まあいいわ
それじゃあやるわよ?』
すき、きらい、すき、きらい、
つぶやきながら花びらを一枚ずつちぎっていく。
『……好き!良かったわ!好きなんだわ!』
と笑顔になるルビーをみて、ジャックは聞く。
「何がよかったんだい?
自分のことなのに。」
『あのね、ジャック。これは自分の気持ちじゃなくて、好きな人が自分の事を好きかどうかを占うのよ』
と答えるルビーの顔は花が開いたように嬉しそうに笑っていた。
「えっ君好きな人がいるの?」
『もちろんよ。せっかくの休日を潰してまで会いたくなる人ぐらい私だっているわよ。』
頬を膨らましてルビーが答える。
彼女の口から"好きな人"という言葉を聞いた瞬間ジャックの心の何かがざわついた感覚を憶えるが、あえて無視してよかったねと感想を述べる。
『ねぇ、あなたもやってみてよ。』
ルビーは魔法で花をだして、ジャックに渡す。
「…これ花びら多くない?」
『いいじゃない別に。
多ければ多いほどドキドキするじゃない。」
わざとなのかそうでないのか分からないが、ルビーは面倒くさそうに言った。
「まあいいか。始めるよ?」
相手は誰にしようとジャックは考えながら花占いを始めた。
すき、きらい、すき、きらい、すき、
(ルビーでいっか…)
ルビーは僕のことがすき、きらいすき、きらい、
名前は出さずに黙々と花をちぎる。
『…ねぇあなたは好きな人はいないの?…』
「うーんワンダーランドには恋がないからねぇ〜」
顔をあげずにジャックが答える。
すき、きらい、すき、きらい、
((もしルビーが僕のこと嫌いだったらどうしよう))
胸がズキンと痛む。
((なんでルビーが僕のこと嫌いだと嫌なんだろう))
一見普通な感情のように聞こえるが、彼らの本来の役割は“嫌われ者”なのだ。
嫌われ役には慣れっこである。
しかし、今の彼は彼女に嫌われることを恐れている。
((彼女に嫌われたら、こうして遊ぶこともなくなるのかな))
いつもは思わない暗い感情が彼の頭を渦巻く。
((……この気持ちが皆のいう“恋”ってヤツじゃないか??))
心の霧がかかっている部分が晴れたような気がした。
だが、この芽生えた気持ちをどう伝えればいいのだろう。
ジャックの心の中にまた違う霧が見え始める。
((もう頭ん中がルビーでいっぱいだ))
漏れてでてきそうな笑みを隠しながら、花びらをちぎる。
魔法でできた花びらはちぎってもちぎっても減る様子はない。
(((せめてこの時間が一生続けばいいのに…)))