火拳と私と。
□007 梅雨
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今は六月。梅雨の季節。ここ一週間ほど、ずっと雨が降り続けている。
外がどんよりしていると気分もどんよりしてくるもので、優美は朝から溜息をついていた。
「元気ないわね、優美。エースが休みだからかしら。」
「そういえば、エースが休みなんてめずらしいわね。どうしたの?」
ビビに聞かれ、優美は朝にエースから電話で告げられた通りに伝えた。
「雨、だりィから休む。だってさ。」
「なんだそれ。」
エースは雨が嫌いらしく、一週間も晴れない天気に嫌気がさしたようだ。
「私も帰りたいー。」
「あららー。朝っぱらからそんなこと言わないでよ。俺が一番帰りてェよ。」
「教師が言う台詞じゃないでしょ。」
いつの間にか教室に入ってきていた青雉につっこみ、優美は机に突っ伏した。
その日一日は授業も身に入らず過ぎていき、気がつけば放課後になっていた。
一人で生徒玄関に向かい、持ってきた傘を取ろうとしたが、そこにあるはずの傘は見当たらない。
「…盗まれた?」
どれだけ探しても傘は見つからず、優美は深い溜息とともに、何となく、灰色の雲で覆われている空を睨みつけた。
「また溜息かよい。」
優美がその声に振り向くと、そこにはマルコの姿があった。
「マルコ先輩!」
「どうしたんだよい、帰らないのか?」
「いや実はですね、傘を盗まれてしまったようで…どうやって帰ろうか模索中でして…。」
マルコは少し何かを考える素振りを見せた後、優美に言った。
「俺の傘、入るか?」
「…え!」
「優美ちゃんが嫌じゃなければだけどよい。」と笑って言うマルコが、優美には神様に見えた。
「全然嫌なんかじゃないです!マルコ先輩こそ、迷惑じゃないですか?」
「俺はむしろ大歓迎だよい。」
他に帰る手段がない優美は、マルコの優しさに甘えることにした。