短編集

□看病
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「イゾウ隊長、入りますよ?」




扉を叩いても中から返事はなく、リムはそっと部屋に入った。

イゾウは、まだベッドの中で眠っていた。


リムは持ってきたタオルを洗面所で濡らし、それをイゾウの額に乗せる。

するとイゾウの目がゆっくりと開かれた。




「すいません、起こしちゃいましたね。」


「リム……。」




掠れた声で名前を呼ばれ、リムは思わず胸を高鳴らせた。




「…た、隊長、食欲ありますか? お粥作ったんですけど、食べられます?」


「リムが作ってくれたのか……?」




そう言ってゆっくり体を起こすイゾウ。

リムは思わず彼から目をそらした。


火照った顔に熱で潤んだ瞳、そして、はだけた着物から見える逞しい胸。

リムの心を乱すのには十分すぎるほどだった。




「はい…温かいうちにどうぞ。」


「お前が食べさせてくれるんじゃないのか?」


「えっ?」




弱っているとは思えないほど、色っぽい笑みを浮かべるイゾウ。

一瞬表情を堅くしたリムだが、ゆっくりスプーンをイゾウの口へ運んだ。




「ん…旨いな。」


「本当ですか? 良かった…。」


「口移しだともっと旨くなるだろうがな。」


「はい!?」


「ふっ、冗談だ。」




イゾウよりも熱があるのではないかというくらい、顔を赤くするリム。


なんとか全て食べ終えさせたリムはイゾウを再び寝かせ、部屋を出ようと立ち上がる。

しかし、その腕はイゾウに掴まれた。




「イゾウ隊長?」


「行くのか、リム…?」




普段は決して見ることが出来ないイゾウの甘える姿。

リムの心臓はそろそろ限界を迎えそうだ。




「ここにいてくれ……。」


「は、はい……。」




リムがベッドの横に座ると、イゾウに手を握られた。

とうに心臓の限界を越えたリムをよそに、イゾウは気持ちよさそうに寝息を立て始めた。


その寝顔を見つめるリム。


ふと、マルコの言葉が頭によぎった。



『キスの一つでもしてやれば一発だよい。』



…何考えてんの私!


ブンブンと頭を振り、変な考えを消し去るリム。


しかし、積もりに積もったこの心のもやもやを晴らす方法が他に見当たらない。


イゾウを見ると、ぐっすりと眠っているようだ。

リムは一度深呼吸をすると、そっとその顔に近づき、額に触れるだけのキスをした。


そしてすぐに自分のしたことが恥ずかしくなり、慌ててイゾウから離れようとする。


だが次の瞬間、グイッとイゾウに手を引かれた。




「……え。」


「随分大胆じゃねェか。」


「おおお、起きてたんですか!?」




イゾウはリムの顔を自分の元へ引き寄せ、耳元で囁く。




「今はお預けだが、風邪が治ったら今度は口にしてやるよ。」




数日後、回復したイゾウに部屋へ連れ込まれたままリムが出てこないという話が船中に広まった。
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