ヒカルの碁
□Next 第1章
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小波はキーボックスから指示された部屋の棚の鍵を探し出すと、倉田の元へと向かった。
棋士院に職員として配属されてからの日にちはまだ浅く、実際のプロに会うのは今回が初めてとあって、少し緊張していた。
碁自体も馴染みは薄く、碁盤に触ったり、実際に碁石を打ってみた事は無い。
オセロと同じ白黒で石を置く場所が違う、陣取りをする……という認識程度だった。
仕事に慣れてきたら碁の勉強を始めなくちゃ……。
仕事をしながら、そんな事を小波は漠然と考えるのだった。
「倉田先生はこの後お食事に出られます?」
碁石がしまってある棚の鍵を開錠し、顔だけ向けながら問いかけると、倉田は早速荷物を開封して、いくつかの土産を選別し始めていた。
棋士の業界は礼儀がしっかりとしていて、こういった贈り物は慣例として行われている。
しかしながら囲碁に疎い小波には、倉田がそういったことにも気を配っているのが意外に思えた。
倉田先生でも、お土産とか買うんだ……。
全部自分用だと思ってた。
倉田に心の中で申し訳なく思いながら、小波は碁盤の脇に二種類の碁石をそっと置いた。
今回は3戦したという事だったので、念のため3盤分の準備をする。
「この荷物置いたら俺も何か食いに行くわ。
まあ10分前くらいには戻るつもりだけど」
「かしこまりました。
では、その頃にお茶はご準備させていただきますね」
「よろしくー。
あ、これ棋士院の職員さんたちにお土産」
「ありがとうございます」
一通りの選別を終えると、今度は倉田は別の鞄から数枚の用紙を取り出し、吟味するように見比べている。
遠目からそっと覗いてみると、升目に白黒の碁石が並んでいる。
今回の結果なんだろうと、小波にも何となく予想がついた。
「……まずは塔矢の方からにするか」
用意した碁石の下にそれを挟むと、倉田は食事に行くべく部屋を出て行った。