ヒカルの碁

□Next 第1章
4ページ/38ページ

●Next 4●






 倉田から預かったお土産を抱きながら、夕暮れの棋士院の廊下を小波は事務室へ向かって歩いて行く。
今日は倉田たちが韓国から戻ってくるため、棋士院には職員以外の姿は無い。
院生たちも今日は棋士院に入る事はできない。
普段はよく院生とすれ違ったり、部屋の前を通りかかると熱心な声が聞こえたりするのだが、こんなにも静かだったのかと何だかしんみりした気分になる。

 年に何回か、こういった日はあるらしい。
その度に先生方はよく碁盤を前に顔をつき合わせて、あーでもないこーでもないと夜遅くまで検討会をする。
それぞれ第一線で活躍している先生方が、向上心を失わずに新しい手法を生み出そうとしている場面を、ここに入ってから短いながらも、目にしてきた。

 夢中になれるものがあって、羨ましいな・・・。

 小波は特に今現在情熱を傾けられるものがある訳でもない。
もちろん学生時代などはそれぞれに充実した生活を送ってはいたが、小中高を卒業し、短大に進学して就職してからはただ何となく日々を過ごしていた。

 囲碁・・・か・・・。
 でもやっぱり難しそう。
 将棋は王将を取られたら負けなのはわかるけど、囲碁はスペースがたくさんあるのに投了したりするから、やっぱりよくわからない・・・。
 でもでも、多分囲碁好きな人だったら、私の今の環境って延垂ものだよね・・・。

「せっかくのご縁なんだから、棋士院の職員らしく囲碁の勉強をしよう!」

 夕日を浴びながら、小波は鼻息荒く決心するのであった。



「お、ごくろーさん」
「斎藤さん、倉田先生からお土産いただいちゃいました」
「こっちは塔矢先生と進藤先生からいただいたよ」
「ここで働いていて良かったです!
 こんなにちょくちょくお土産のご相伴にあずかれるなんて」
「ははは。私もそう思うよ。
 では早速開けさせてもらおうか」

 事務所の職員たちでお土産を山分け・・・もとい。
仲良く分配する。
他の職員たちもいい人たちばかりで、この職場で仕事をするのが建前ではなく、本当に小波にとっては楽しかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ