【エンド後 切/死ネタ苦手な方はご注意下さい】




屯所設定で書いた 【震えて、揺れる。】 と微妙に話は繋がっていますが読まなくても問題ありません









不思議ですね。
今、こうして目を閉じれば
貴方の輪郭は寸分違わず思い出せるというのに。
貴方が私に触れた指先。全盛期より鈍ったと少し寂しそうに笑って言っていたけれど抱き寄せられる度に感じた力強かった腕。

甘い口付けをくれた唇の柔らかさも、吐息の熱さも。

全部、全部、覚えているのに。

目を開ければ、貴方だけが居ないなんて。

今夜だけは貴方に逢えるでしょうか。










「総司さん、見てください!綺麗な笹ですね」
「本当、立派だね」

雪村の地に住み始めて最初の冬が終わり、春の暖かい日々に積もった深い雪も溶け、段々と夏の近づきを感じる頃。夕暮れの散歩の途中で初めて寄った裏の山に立派な竹林があることを知った。

「一本伐って持って帰ろうか。千鶴、今年は一緒に七夕しようよ」

突然の僕の提案に君は元々大きな目を更に大きく見開いて驚いている。

「何、千鶴?僕が七夕をしようっていうのがそんなに意外?」

驚いている理由はわかっているけど、わざと知らぬ顔で悲しそうにいじけてみせると千鶴は慌てて首を横に振る。

「意外なんかじゃ……確かに少し驚きましたけど…総司さんは七夕がお嫌いなんだと思っていたので」
「屯所の頃のこと覚えているんだね?」
「えぇ…まぁ…」

僕の言葉に屯所の頃の思い出が甦ったのか少し彼女は言葉を濁す。まぁ千鶴にとっては決して楽しい思い出ではないだろう。僕はあの時、とても冷たく接してしまっていたから。


短冊に願いを書いて、それを神様が絶対に叶えてくれる世の中だったらどんなに良いだろうね。当時の僕はそんなのただの気休めにもならないと思っていたから……あの時勇気を出して僕を誘ってくれた君を冷たく突き放した。

神様なんているのか知らないし、信じていなかったし、これからも気休めに願うことはないと思っていたけど、今の僕は心から祈らずにはいられない。


どうか君が笑って過ごせる日々が、ずっと続きますように。



僕の願いを書いた短冊は千鶴からは見えないくらい高い高い場所に結んでしまおう。

笹飾りと一緒に焚きあげた僕の願いはやがて神様に届くかな。

神様に願うくらいなら自分で努力して叶えたほうが良いと、昔から思っていたし、大半のことは今でもそう考えているけれど。

剣として生きる道を選び、沢山の人を斬り、愛も、長く生きる命も要らないと血にまみれた生き方をしていた僕に不相応なくらい沢山の愛と幸せをくれた君に……

願わずには、いられないんだ。






***

ねぇ、総司さん。
七夕の夜、雨が降ると織り姫と彦星が会えない悲しみで泣いている涙が雨になったと言われている説もあれば、会えた喜びで流した二人の涙が雨になっているという真逆の説もあることを知っていましたか?

一年にたった一度しか会えない彼らが可哀想。そんな風に昔は思っていてけれど。

今の私は一年に一度でも会えるかもしれないという希望のある彼らが羨ましい。

ねぇ総司さん。私はいつ、またあなたに会えるのでしょうか。

何年待てば会えるのでしょうか。早く逢いたい……なんて考えてしまったらあなたはきっと怒るのでしょうね。

でも、せめてこの日だけはあなたに逢いたいと願うことを どうか許してください。



総司さん。あなたに逢いたい。

ただ、逢いたいのです。




***






恋い焦がれ愛した人との僅かな逢瀬で織り姫は満足できるの?
『逢いたい』という願いが叶って彼と逢えたなら、次には『離れたくない』と願わないの?
私なら絶対にあの人の手を離さない。君って本当に頑固だね、と少し呆れた顔で笑われても……もう二度と離さないのに。






この度素敵な沖千web企画に参加させていただいました。企画サイト様へは下のリンクからどうぞ。
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