障害兄弟の日常

□煉斗と障害と足
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一話 煉斗と怪我と兄弟の絆

・・・痛い。
身体中が痛い。
死んじゃうのかな。
お兄ちゃん・・・。
辺りがざわつき始める。
遊「おい・・・煉斗・・・しっかりしろ・・・煉斗!」
遊君・・・無事だったんだね。
よかった。
薄れゆく意識。
駄目だ・・・何だか・・・眠くなって来た。
もっと、遊んでおけばよかったかな・・・。
救急車の音がする。
あぁ・・・やっぱり死んじゃうのか。
救急隊の人に抱かれ、声をかけられる。
救「僕聞こえるかな?お名前言える?」
もうすぐ死ぬかもしれないのになんで名前なんか言わなきゃいけないんだろう。
煉斗「ね・・・り・・・と。」
救「煉斗君?」
煉斗は頷いた。
救「煉斗君もう大丈夫だからね。
ちょっとちくっとするねー。
一二の三。」
点滴が始まった。
煉斗は最期の力を振り絞って、自分の家の電話番号を伝えた。
煉斗「おじ・・・さん。」
救「あまり喋っちゃだめだよ。」
煉斗「僕の・・・家の・・・番号は・・・。」
救「お家には学校の先生にかけてもらうから、大丈夫だよ。ありがとう。」
煉斗は力を使い果たして、意識を失った。










・・・
兄ちゃん?
煉斗が目を覚ますと、辺りは真っ白。
雪も降っていないのに。
おかしいな・・・どこだろう。ここ。
煉斗は思い出した。
あぁ、そうだ。
僕は遊をかばってはねられたんだ。
じゃあ、ここはあの世っていうやつか。
だから、何も、誰もいないんだ。
お兄ちゃん。
翔にい・・・湯対馬・・・さみしいよ。
早く、お迎えに来てよ・・・。
一人じゃ、寂しいよ。
苦しい。頭が痛い。
また、あの感覚。
もう嫌だ。
思い出したくない。
忘れてしまいたい。
何もかも。
友達の事も、湯対馬の事も翔にいの事も。何もかも全部。
なんで僕だけ。
助けてよ・・・蘭夜兄ちゃん。










蘭夜「煉斗は・・・そうですか。いつ頃目を覚ましそうですか。」
医師「まだ、わかりません。」
翔「弟は大丈夫なんですか!」
医師「一命は取り留めました。死ぬ心配はないですが、かなり、問題が多いです。」
蘭夜「問題・・・?」
医師「えぇ、検査の結果、脳に傷がついていて記憶喪失の疑いがもたれています。
そして、非常に残念な事に両足の末梢神経が完全に麻痺していて動かなくなっています。」
蘭夜「っ・・・!」
翔「なんで・・・。嘘だ・・・。」
医師「お子さんには私たちから、お伝えしたほうがよろしいでしょうか。」
蘭夜「・・・。」
蘭夜はショックだった。
蘭夜「すいません・・・まだ、信じられなくって。もう少し時間をください。」
医師「疑われるのも無理はありません。また、時間があれば、お話しましょう。」
蘭夜「はい・・・。」
蘭夜は煉斗の病室に行く。
痛々しい弟の姿。
永遠に動くことの無くなってしまった煉斗の足。
自分のせいだ。
自分のせいで、煉斗をこんな風になってしまった。
誰も悪くない。
悪いのは自分なのだから。









煉斗はまた目を覚ました。
ここは・・・どこ?
僕は、誰なんだろう。
すると、泣き声が聞こえた。
知っているような、知らないような。
煉斗はまた、眠りについた。









煉斗が起きたのは4ヶ月後だった。
煉斗「うぅん・・・。」
蘭夜「ん・・・、煉斗?」
煉斗「だ・・・れ?」
蘭夜「お前のお兄ちゃんだ。」
煉斗「お兄ちゃん・・・?」
蘭夜「あぁ。」
何でだろう。初めてのはずなのに、なぜか信じられる。
蘭夜「先生呼んでくるね。」
僕は、どこかに行こうとするお兄ちゃんの洋服の袖を、無意識に掴んで、こう言っていた。
煉斗「一人にしないで・・・。寂しいよう。怖いよう。」
そしたら、お兄ちゃんは、僕を抱きしめてくれた。
蘭夜「大丈夫だよ。ずっと側にいてあげるからね。もう、怖くない。寂しくもないよ。」
僕は不思議と安心できた。
お兄ちゃんは側にあるナースコールで先生を呼んだ。
15分ほどすると先生がやってきた。
医師「失礼しまーす。」
僕は先生を見て少し怖くなった。だから、お兄ちゃんの手を握った。
名札には川石と書かれていた。
蘭夜「煉斗、先生はね、煉斗の事を助けてくれたんだよ。だから、怖がらなくていいよ。ちゃんと、こんにちわって、言えるかな?」
煉斗「こ・・・こんにちわ。」
川石「こんにちわ。」
川石「そうだ、煉斗君、この子の事、覚えてるかなぁ?」
写真には一人の男の子が写っていた。
知らないはずなのに、知っているような気がする。
煉斗は首を横にふる。
川石「そうか、仕方ないか。ありがとう。」
先生は帰り際にこんな事を言って帰っていった。
川石「メリークリスマス。」
クリスマスって、何なんだろう。
でも、僕は自分の名前を思い出した。煉斗。そう確かに呼ばれていた。
お兄ちゃんが立ち上がると扉を開けて中に入っていった。
煉斗「兄ちゃぁん・・・。」
蘭夜「ちょっとまっててねー。」
そういうと、5分ほどで出てきた。
近くにある水汲み場のようなところで水を出して手をこすり合わせていた。
何をしているんだろう。
僕はそう思った。
お兄ちゃんが僕のそばに来た。
蘭夜「どうした?」
僕は無意識のうちに両手を広げていた。
お兄ちゃんは僕を抱いてくれた。
後で知ったことだが、これを抱っこというらしい。
暖かかった。
お兄ちゃんが僕の背中を優しく叩いてくれたんだ。
そして僕は、初めて安心して眠れたんだ。
2話 煉斗と介護と家に続く
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