魔法の国の作り方

□第四章
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自分の身に起きてしまった事は今の俺にはどうしようもなかった。
魔法も使えない俺はただの子供だ。
記憶の欠損をどう受け止めて良いのか分からず、朝食を残さずに口に詰め込んだ。
フランスが言っていたように今はこれからのことを考えるべきだ。
そうと決まれば、俺は食器を洗いながら早速考え始めた。
フランスの家にお世話になるってことはせめてこっちの文化を知っておかなければ。
島のことは気になるが、今俺がどうする事もできないのが事実だ。
それなら、ここでしか出来ない体験もしておこう。

「何?フランスの文化を知りたいって?」
「折角フランスに来たんだからそういうのを知るのも良いかなって」
「いいね。お兄さんがフランスの魂を教えてやろう!」


・A la française Lesson1

「まず、挨拶だ。始めましては握手。仲良くなったらビズだ」
「ビズ?」
「ハグとキスみたいな奴。ほっぺをあわせて口でチュッて音を立てるんだ。」
「じゃあ、握手だな」
「今は冗談を言っても仕方ないぞ?ほら、お兄さんにビズしてごらん!恥ずかしいなら俺から…」
「止めろ放せ!何口にしようとしてんだバカ!」
「親友同士なら口にだってするものなんだよ」
(※友人から聞いた話なので信憑性は低いです。)

身の危険を感じて、急いで寝室に逃げてきた。
あのリップ音が耳にこびり付いて気持ち悪い。
なんかヒートアップしていたので一発殴っておいたけど、大丈夫だろうか?
申し訳なくなってそっとフランスの様子を伺った。
ラジオで音楽を聞きながらワイン片手に外を見てニヤニヤしている。
気持ち悪いが、怒っている様子はない。
俺はとりあえず隣に立って俺も外を見る。
謝るだけ、すぐにパパッと終わらせてしまおうとフランスの方を見ると目が合った。

「今度はちゃんと挨拶できるかな?」
「……!」

俺はどうにでもなれ!と心の中で叫びながらフランスに腕を回した。
でもやっぱりこの先は恥ずかしかった。
でもこれではただ抱きついてるだけだ。そんなの耐えられないので控えめに一回だけビズをした。
背伸びが辛くてすぐに離れようとしたが、フランスはしゃがんで反対の頬に口をつけた。

「な、何しやがる!」
「頑張ってる名前が可愛すぎて、つい」
「なにがついだよ!」
「そうカッカするなよ。顔真っ赤だぜ?」

頭を撫でてくる手を払おうか迷ったがしばらく撫でられてやる事にした。


・A la française Lesson2

「次は食事のマナーについて教えよう」
「なんかややこしいイメージなんだけど」
「ま、慣れれば簡単だからさ」

フランスはリビングをレストランの席に見立てて教えてくれるようだ。
丁度夕食の時間だし、今日は豪勢な食事になるな。

「お兄さんが名前にエスコートされた女性役。いいね?」
「分かった。やってみるよ」
「あなたとのデート楽しみにしてたの。今日は素敵な日にしましょ?」
「その小芝居は居るのか?」

何とか女みたいな仕草を止めてくれるように頼むと、本題に入った。
設定はレストランに入って席に案内されてからだ。
俺はしばらく考えて上座の席の椅子を引いた。

「正解。まず女性をエスコートしてから」
「女性が座ったら座るんだな」
「そう。じゃあ、今日はコース料理を頼むって事にしよう。まず、注文するのは?」
「うん?何だろう…」
「まずは飲み物だ。大人になったら沢山お酒を飲んで好きなものをいくつか覚えておけば良い」
「分かった。じゃあ、今日は水だな」
「水を汲むのもウェイターを呼ぶのも男の仕事だ。女性に料理を楽しんでもらう為にな」

まず出されたのはサラダと大量のナイフとフォークだった。
ナイフとフォークは外側から、料理ごとに持ち替えると聞いて外側の食器を持つ。
腕は二本しかないんだからこんなに沢山あったら驚いてしまうと俺が言うと、
フランスは食器の安全性を証明する為でもあると教えてくれた。

「大きい口を開けるのは下品だから、野菜でも一口の大きさにナイフで切ると良い」
「野菜にナイフってなんか変だな」
「そっちの方が食べやすいだろ?でもたまに折りたたんでフォークで刺す人も居るけど、それは慣れてからで良い」

食べ終わったときはナイフとフォークを揃えてお皿の右下にもち手をかけておく。
何でも置き方に意味があるらしい。

次に出てきたのはスープとパンだ。
付け合せのバターとバターナイフも出てきた。
考えろ。バターナイフでパンにバターを塗って食べるのは分かった。
齧るのはマナー違反か?千切って食べるものなのか?
待て、スープは?パンの前か?それとも後か?

「まず…パンか?」
「うん、正解。最初からパンが置いてあるときはスープが来てから食べるんだ」
「千切って食べる…?」
「そうだ。間違ってもスープに浸すなよ。女の子から嫌われるからな」

パンを食べた後、スープを食べるがこれは知っている。
すすっちゃいけないんだ。スプーンを口に入れて頂いた。
スープが少なくなって来ると、俺は少し考えた。

「少なくなって来たら皿の奥を持って軽く傾けるんだ」
「こう?」
「そうそう。軽く傾けるんだ」
「このスープ美味しいな。レシピ教えてくれよ」
「良いよ。後でメモしてやろうな」

その後は魚料理が出たが、これは特に問題なかった。
左側から一口サイズに切り取って食べていく。
口が汚れたら、二つ折りのナプキンの内側で拭いた。
その後はメインディッシュの肉料理と水の入ったボウルが出てきた。

「これは何か分かるか?」
「厨房が火事になったときに火にかける水か、喧嘩になったときに相手にかける水のどっちか?」
「どっちも不正解。因みに喧嘩のときにかけるのは自分の飲み物だけど、男がかけられることが多い」
「女ってどこで怒るか分からないよな」
「それも可愛い所じゃないか。それと、これは指を洗うフィンガーボウルだ」
「どれだけ激しい喧嘩なんだ」
「指が血で汚れるほどの殴り合いになったら食事どころじゃないでしょ!」

このフィンガーボウルが出たときは指先を使って切り分けても良いらしい。
初めに一口サイズに切り分けても良いが、ステーキなどの大きな肉のときは初めに半分くらいを切って食べ始めるのが良いらしい。

肉料理が終わってからは、デザートとコーヒーが出た。
会話を楽しみながら女性のペースに合わせて飲むのが気遣いらしい。

「で、お店を出てお別れの挨拶だ」
「…え?」
「ほら、挨拶。お昼はしてくれたじゃない」
「べ、別に良いだろ。食事のマナーは教わったしさ…」
「はい、強制〜」
「イヤァァァアアア!!」

満腹感に油断しているとこうなると身をもって体験した。
複数人居たときは全員に挨拶するらしい。
その間、長話を始める事もあるが大人しく待つのがマナーらしい。
何でだろう、最後の挨拶だけで凄く疲れた。














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