魔法の国の作り方

□第八章
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ほとんどの者が角を手放す一方、残りは少年と少女の二人だけとなった。
二人は日本さんとイタリアにずっと引っ付いている。

「何でそんなに懐かれてるんですか」
「とある部屋に閉じ込められていまして、助けた所懐かれてしまいました」
「二人とも名前が無いみたいでね。日本と一緒に考えてたんだ」
「そうか…。二人はどうしたいんだ?」

俺はしゃがんでそう聞くと、男の子はイタリアの後ろに隠れてしまった。
が、女の子は俺の前に堂々と立ってこちらを見た。
全く物怖じしない子だな…。

「私、貴方のこと知ってる。私を連れて行ってよ。喧嘩じゃこの中の誰より強いんだから」
「け、喧嘩?」
「そう。貴方世界中と戦ってるんでしょ?私決めたの。貴方の島に住む」
「…ね、ね。ぼ、僕も…」
「あんたは弱っちぃんだからダメよ!」

女の子に一喝されると男の子は何も言い返さずにまたイタリアの後ろに隠れた。
女の子はおでこの真ん中に前髪を分けるようにして一本短いがツノが生えている。
俺と同じで白に黒ずんでいるような色だ。
島に住ませるとなると楓にも相談しなきゃいけないしなぁ。
男の子の方は泣きそうになっているが、おでこの右側に三本違う長さのツノが生えている。楓と同じ真っ白のツノだ。

「俺の友達が良いって言ったら一緒に住んでもいいぞ」
「名前君。いいのですか?この子達は一応…」
「ま、これだけツノを手放した奴がいるって言う事実があれば十分でしょう」
「わぁ、名前も国っぽいこと言うようになったんだね…」
「それに、見たところ最年少っぽいからな。このままかき乱して放り出すのも可哀想だと思ったんだ」

俺は一応保留の旨をアメリカに伝えて、あの子達を楓に合わせてくれるように頼んだ。
アメリカは少し悩んだが、イギリスには内緒と言う条件でOKをくれた。
報告文書などはイギリスなんかに丸投げして俺は仕事をあしらった。
魔法事件に関与していると思われる団体の一斉摘発と魔力封印。
十分解決と呼んでもいいだろう。建物内にあった資料はイギリスが管理するらしい。
俺はロッドを島に持ち帰り、魔石のみ管理する事になった。
強い魔力を発する石だ。必要が無い限りは表に出さないように保管するのが無難だろう。

「随分疲れた顔してるな」
「フランス。俺、やっと静かに生活できそうだ」
「その前に楓ちゃんとの再会だ。頼んでくれるなら俺がロマンティックに演出してやるけど?」
「頼めるなら、楓が喜びそうなものをお願いできるか?」
「もちろん。可愛い弟の頼みだ」
「ありがとう。…え?俺、いつ弟になった?」
「さぁて、弟の為に一仕事やってあげようかな!」
「バカ!大声で言うな!お前の弟になったつもりなんて無いからな!」



俺は帰っている途中にふと思った。
あの男はツノを持った人たちの国として生きてきたわけだ。
じゃあ、あれだけの人がツノを手放したら国として生きていくことは出来るのだろうか。
まさか死んじゃったりしないだろうな。
俺は島に戻ってすぐにイギリスに電話をして確かめた。

「なぁ、国って国民がいなくなったらどうなるんだ?」
「俺の記憶にある以上では体が消えて無くなるな」
「それはつまり死ぬって事か?」
「あの男の事を心配してるんだろ?他の国との接点が少なかったからな。今後は人間として生きていけるだろう」
「そうか。それなら良かった」
「もういいか?俺も忙しいんだ」
「あと一つ。イギリスは本当に何も覚えてなかったのか?」
「こっちでも調べた所だ。昔ツノが生える奇病が流行ったという記録しかない。つまり、その程度だ」
「…分かった。悪かったな、忙しい所邪魔して」
「まぁ、たまにはこう話すのも悪くないからな」
「ありがとう。それじゃあ、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」

ツノのある人間と言うのは本当に歴史の裏に押し込められた存在だったんだ。
男が言った俺の登場が遅すぎたという言葉が頭に残る。
あの口ぶりだともう何百年も待ってたんだろうな。
もう関わりたくない気持ち半分とちゃんとあって話を聞きたい気持ち半分。
話を聞いたところで、どうなるわけでもない。
あいつはあいつの歴史があって、その一部に俺が巻き込まれてただけ。
あの予言書も今思えば途中まであっていたのだ。
予言書に載っていなかった楓の存在が俺を予言書から逃がしてくれたのかもしれない。
それなら俺はその楓を笑顔で迎えてやることが今出来る事だろう。

数日後、スーツと一緒に一枚の手紙が島に落とされた。
手紙にはフランスのホテルでの食事会のお誘いも入っていた。
日付は来週の木曜日。ディナータイムのフランス料理をコースで楽しめるらしい。
同封されている手紙はフランスが書いたようだ。

名前へ

お兄さん奮発していいところ貸切しちゃった!
教えたマナー通りにって言いたい所だけど、この日だけは楓ちゃんとの再会を楽しめよ。
女性を楽しませることがフランス流マナーの大前提だからな。
当日はバッチリ格好良くキメて来い。お前も二年前より男前になってるから自信持てよ。

それと、アメリカからの伝言。
楓と子供達を会わせたらしい。楓は随分仲良くなったようで一緒に暮らしてもいいそうだ。
島の住民としてそっちに行くのは食事会の次の日を予定している。
それと国連の加盟について考えていて欲しいそうだ。
それについては難しい話が長くなるからここでは割愛する。
それに当たって、正式な国名と国旗を定めてくれとのことだ。

お前ももうすぐ国として一人立ちできそうだな。
お兄さんはいつでも弟のために力になるから頼ってくれよ。
それじゃ、名前の繁栄を祈って。

       美の国より フランス

なにがどうしても俺の兄貴でないと落ち着かないのかあの変態は。
ともかく、フランスの言うとおり。当日は最高に決めていこう。
二年ぶりに楓に会えるんだ!
…ん?二年ぶり?ってことはあっちも19歳か。
あれ?おかしいぞ。何か楓と会うだけなのに緊張してきた。
19歳ってことは、だ。お互い大人って事だ。
楓とこの島で二人の子供と一緒に暮らすって…。
おいおい、家族かよ。いや、家族ってお前、気が早いだろ!
気が早いってのもおかしな話だな。俺と楓は何も無いんだから。
そうだ、堂々としてれば良いんだ。
俺は無敵の竜騎士団だぞ?食事会くらい何も無くやってのけてやる!



当日、俺は送られてきたスーツを来て家を出た。
バルは既に家の前で俺を待ってくれていた。

「バル、どうだ?似合うか?」

俺は両手を広げてバルに自分の姿を見せるとバルは首を横に振った。
これが似合わないとなると大変だ。
俺は首もとの蝶ネクタイを外して見せた。
するとバルは嬉しそうに頷いて、背中に乗りやすいように伏せた。
俺は蝶ネクタイをポケットに入れてバルに乗ってフランスに向かった。
待ち合わせ場所は会場近くの公園。バルから飛び降りて俺は楓を待った。
しかし、待ち合わせ時間を20分過ぎても楓は現れなかった。
換わりに現れたのはイギリスとアメリカだ。

「どうした?」
「とても言いにくいんだけど、楓が会いたくないって言い出して…」
「え?楓が言い出したのか?」
「今朝いきなり言い出してな。説得しても聞かないんだ」
「…今どこにいる?」
「サントノーレの112番通りだが、地図はいるか?」
「いや、分かる。ちょっと迎えに行って来る」

俺は笛を吹いてバルに乗り、ホテルまで飛んだ。
遠くからでも楓の魔力を感じる。大体6階くらいだろうか。
バルに頼んで近づいてもらい、窓を叩いた。
すると、驚いた顔で楓が窓を開け放った。
楓の顔を見た瞬間、俺は今まで考えていた言いたかった事など全て忘れて両手を伸ばしていた。
楓も窓の縁に腰掛けて、そのまま飛び出した。
俺は楓を全身で受け止めると鞍に横座りさせて俺は手綱を持ったまま立った。

「こうしてると、家を出た日のこと思い出すね」
「あの時はほうきだったっけ?」
「あの時、私すっごく嬉しかったんだ。それが今日不安になったの」
「どうして?」
「だって、二年前は私に別れを言いに来たでしょ?今日も別れを言われるんじゃないかって…」
「別れを言った所で楓は別れさせてくれないだろ?」
「…それもそうね。ねぇ、聞いて。私今までに名前に負けないくらい驚かせたんだよ」

俺はそのまま談笑しながら料理店へエスコートした。
店の中には見知った顔がちらほらと見えるが、直接邪魔はしてこないだろう。
俺は指定されたとおりにフランスの夜景が見渡せる席へ楓を通した。
席に着いた途端に流れ始めた音楽に顔を綻ばせる楓はもう大人だ。
明日の為にも、今日を十分に楽しもう。














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