魔法の国の作り方

□第九章
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会談室に入ると、ソファに座っているイギリスの正面に立って俺はイギリスを睨んだ。
それに対してイギリスは全てを見透かした目をしてこちらを見つめている。
その目に焦りも反省の色も無い。ただ、余裕と嘲笑を込めた瞳だった。

「先日の戦闘機はどういうことだ?」
「あいつが尋問に耐えたのか?それとも、お前の尋問が下手だったのか?」
「あいつは口を割ったよ。全部聞いた」
「それなら何だ」
「何で向かってきたのがたった一機なんだって聞いてるんだ。何だ?なめてるのか?」
「まさか、あれほどの大戦を勝利で納めた竜騎士団様にそんなご無礼…」
「…うざったいな。正直に言えよ。何が目的だ?」

俺が痺れを切らしかけたとき、指輪が熱くなるのを感じた。
島で楓が異変を告げている。そう思い、一瞬だけ動揺を顔に出した。
すぐに冷静を取り戻したつもりだったが、イギリスはそれすらも見逃さなかった。
嫌な笑顔で立ち上がり、俺を見下す。

「どうした?急用か?」
「お前には関係ない」
「楓が可哀想だな。今頃恐怖で泣いてるぜ?」
「何か知ってるなら今のうちに言っておけよ。後からお前が関係してたって聞いたらタダじゃおかないからな」
「そうか。じゃあ、一つだけ教えてやるよ」

イギリスがそう言った時に俺は嫌な予感がした。
急いでドアに向かって走るが、そのドアはびくともしなかった。
壊してしまおうと杖に手を伸ばすと、その手はイギリスの手によって阻止された。
イギリスの手から逃れようと身をよじった。
しかし、その動きを利用され足を掛けられ、俺はバランスを崩した挙句に床に倒れた。

「お前はしばらく帰れないぜ」
「…ふざけんな!」

俺は必死に頭を働かせた。
左手で杖を掴めばイギリスでも投げ飛ばせるか…?
いや、この体勢だと懐の杖は取り出せない。
…笛!笛なら口まで運べば…。
俺はズボンのポケットに入っている笛をイギリスに見えないように口まで移動させた。
後は吹くだけとイギリスから一瞬目を逸らした。
が、俺の唇に触れたのは笛ではなく何かの布だった。
右手は解放されたが痺れて上手く動かせない。
言う事を聞かない体でもがきながらイギリスを睨み上げた。

「お前とは場数が違うんだよクソガキが」

暗転した視界と、ツノが床にぶつかった音を聞いて俺は意識を飛ばした。
このパターンは、アレだ。冬のジンクスだ。
楓…、俺が帰るまで二人を頼むぞ。




俺は誰かの話し声に目が覚めた。
まずは冷静に。こんな体験初めてでないなら意味も無くうろたえても時間の無駄だ。
まずは身の回りの確認が最優先だ。どうやら、上半身は何も身につけていない。
椅子のようなものに座らせられている。手首も腕も背もたれの後ろで拘束されている。
魔法は使えないようだ。足も足かせがかかっているのが分かる。
目に軽い圧迫感を感じる。目隠しもされているみたいだ。
つまりは、結構本格的に拘束されている。

「あれ?目が覚めたのかな」
「今の状況理解できるか?いい格好だぜ」
「…イギリスと、ロシアか?」
「ふふ、正解」

最悪だ。こんな状況でこいつが居るなんて、いつかの悪夢が脳裏をよぎる。
早く脱出しなければ。早く島に戻らねば。
俺は焦る気持ちを抑えつつ、これからの作戦を練った。
今は拘束が外れなければ身動きが取れない。
こいつらが何をするつもりなのかは知らないが、拘束具を外す瞬間がチャンスだ。
今は今できることを慎重に見定めるんだ。
今は、こいつらの目的を…。

「…で?どこがいくらなんだっけ?」
「あぁ、さっき言ってた森は25エーカーで57,000ユーロだ」
「ちょっと割高じゃない?」
「あくまで魔法の森だからな」

こいつら、俺の値踏みしてやがんのか?
悪趣味すぎてついていけない。だってそれなら脱がさなくても良いじゃないか。
俺は呆気にとられて口を挟めなかった。
それでも二人の異常な会話は続く。

「彼全部だとサービスしてくれる?」
「そうだな…。島丸ごとなら171,000ユーロだな」
「えー、やっぱり高いよ」
「竜騎士団付だぞ?かなり格安だと思うけどな」
「…そう考えると安いのかなぁ?」
「これ以上はこいつ自体にサービスしてもらうんだな」
「そうだね。彼ってだけで楽しめそうだし」

ありえない。自分の財政難をどうにかする為に俺をロシアに売るなんて。
ともかく、話が途切れた。ロシアへ移動するには少なくとも椅子と足の拘束具は取れる。
魔法を封じる拘束具がどこにあるのか分からないが、これはチャンスだ。

「買ってくれるのか?」
「もちろん。代金はまた後日」
「そうか。…よかったな。良い値段で出荷だ」
「それは俺に言ってんのか」
「君の為の部屋を用意しなきゃね。ベッドは干草がいい?」
「躾けたいならそのセットをおまけしとこうか?」
「本当?うれしいな」

黙ってれば好き放題言いやがって。
明らかに家畜と同じ扱いをされて腹の底が熱く滾った。
このお礼は必ずどこかで果たすぞ、イギリス。
ドアが閉まる音が聞こえると、部屋の中の足音が一つになった。
この足音がどちらであれど、今から必ず脱走のチャンスが訪れるはずだ。

「そういえば君、飛行機乗ったことある?」
「…ないな」
「そうなの?じゃあ、今からが初めてのフライトだね」
「…"今から"だって?」
「うん。だって、ここ飛行機の中だよ?」
「…は?…え、じゃあ」
「今からモスクワに直行だよ」

ここが飛行機の中?モスクワに直行して、それからってことか?
待て、落ち着け。世界地図を思い出せ。
ロシアは分かる。日本の左上だ。モスクワは?
モスクワってどこだ?俺がいつもバルと進撃するところか?
それなら、ロシアの左側かな?ってことは…。
うん。いい方向に考えよう。距離的には近くなってる。
間違いなく方向としては太平洋に向かっている。
離陸する飛行機のなか、俺は必死にいい方向に思考をむけた。



ロシアについて、俺は驚きの連続だった。
空港について、やっと拘束が外れるかと思ったら膝に拘束が増やされた。
両足首も拘束され、動かせるのは頭と足だけの状態で椅子から草のひかれた檻に入れられた。
そこで目隠しが外され、やっと周りを確認出来た。
檻だと思っていた物は家畜用の木箱だ。
女座りをさせられた上で更に体勢を低くした状態で蓋をされた。
そして、運び出された。凍てつく空気が何も纏っていない肩を刺した。
それに、外野がやけにうるさかった。

「ドラゴンだ!迎え撃て!」

その声とバルの鳴き声が聞こえて俺はいてもたってもいられなかった。
俺は自分のツノを上に突き上げて蓋をはねあげた。
多少痛むが、頭でやるよりマシな痛みだった。
俺は攻撃を受けているバルに向かって叫ぶ。

「バルッ!俺のことは良い、楓と子供たちを頼む!」

バルは空中で大きく翻ると轟音のような鳴き声と共に飛び去った。
俺は箱に押し戻され、再び蓋を閉じられる。
それから箱のなかでしばらく揺さぶられていると、蓋が開き俺は男二人に抱え出された。
放り出されたところは、にわか作りの動物小屋だ。
ボロボロの屋根があり、コンクリートで囲まれているが一面だけ鉄格子になっていて切りつけるような風が吹き込んでくる。
動物小屋らしく、干し草は積まれているがそれでは到底寒さをしのげそうにない。
風邪の音の隙間に雪を踏む音が聞こえ、振り替えるとロシアがいた。

「勝手に暴れた罰か?」
「悪い子にはお仕置き。今晩はここで過ごして貰うからね」
「暖房さえあればスイートルーム並みだな」
「明日の朝にその減らず口がどうなってるか楽しみだよ」

ロシアはそう言うと立ち去った。
俺は身を縮め体温を逃がさないようにして、干し草に体を埋めた。
もう、足の指の感覚がない。手の指先も痺れてきている。
寒さにひりつく肌を撫でることもできずに俺は耐えた。
眠れば体温が落ちる。そうなれば凍死してしまうだろう。














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