魔法の国の作り方

□序章
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名前は頭を抱えた。
彼は確かに土曜日に友達の楓とまたバカして遊ぶ約束だったはずだ。
いつもの駅に到着して、そのまま町に繰り出そうとしたのまでは覚えている。
それが何で、目が覚めればこんな暗い部屋に閉じ込められているのか。

ここがどこなのかという問いはあまりにも漠然としていて答えは出そうにない。
が、気分を落としていても仕方がない、と真っ暗なあたりを見回してみる。
目が暗闇に慣れてくると、この部屋には床に何かが描かれている事が分かった。
自分を中心にチョークの様な物で描かれた円は大きさの違う文の様な文字の羅列で何重にも重ねられている。
目を凝らすと、その中の一つにハートの形によく似た文字がある。
彼の嫌いな文字の一つだった。
そこで彼の悪い癖が出た。どうせ一つくらいバレやしない、と人差し指でそれをジグザグに割った。

「よし、別れた」

その独り言はむなしく闇に消えたが、彼は楽しんでいた。
更に色々いたずらしてやりたい気持ちになり、彼はその文字を思うがままに消したり、落ちていたチョークで書き足したりし始めた。
どの位経ったころだろうか、彼の耳は微かに靴の足音を聞いた。
自分がこの部屋で目覚めたときのように横になると彼はうっすらと目を開けて部屋に入ってきた人物を見上げる。

ランプだろうか、光が照らし出した人間はかなり不気味だった。
髪の長い長身の男は深々と被っていたフードを脱ぐと、俺は目を疑った。
まるで悪魔のような大きなツノが頭の左右から生えている。
後に続いて入ってきた数人も同じようにフードを脱ぐ。
すると、それぞれに違う形の動物のようなツノが生えている。
仮装大会か何かかと思って、息を潜めていると、長髪の男が何かを唱え始めた。
その声に反応するように、さっきまで遊んでいた小さなチョークが光りだす。
名前の脳内は混乱しながらも目をつむった。
視界が暗闇に包まれたかと思うと、冷たい空気が胸に流れ込んでくるような感覚に襲われた。

(これ、楓から貰ったフリスクのキッツイやつ食べた時みたいな・・・)

そんな爽快感に身を委ねていると、ふと頭に違和感を感じた。気付けば周りが随分とうるさい。
眠りから覚めるように目を開けてみると、先ほどの長髪はツノがなくなっている。
周りを見てもそうだ。皆、普通の人の形になっている。
少し重くなったような頭に手を当ててみると確かに今まで無かったそれがあった。
頭の左右から曲線を描いて生えているそれは、まるで羊のような角だった。

長髪は名前に向かってよく分からない言葉を繰り返し唱えている。
握っている棒はハリーポッターで見た杖にそっくりだと名前は思った。それに模しているのだろうか?
が、傍から見るとそれは滑稽で痛い行動以外の何者でもなかった。

(こいつ等がしたかったことは分からない。けど・・・)

不意に脅かすようにワッと声を上げると男達は悲鳴を上げながら走り去っていった。
追いかけて部屋から出ると、そこにはフードを深く被った人が立っていた。
フードから黒い髪が見え隠れしている。

「・・・楓?」
「あぁ、なんだ、名前だったの」

声をかけると、やつらのようなフードを被った楓が顔を見せた。
楓は名前と同じ様な状況に置かれ、様子を見に来た一人を襲い、フードのみ拝借してきたのだと説明した。
そのときに、何か言っていたようだが日本語でなかったらしい。
そうして、これからどうしようかと話していると、どこからかパトカーの音がした。
名前たちは駆けつけた警官に保護された。
もちろんこのツノのことも聞かれたが、あったことをそのままに何度も説明してやっと家に帰してもらえた。
パトカーの中で喋っている名前はまさか同じような話を家でも何度もしなければならなくなるとは思っていなかった。














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