魔法の国の作り方

□第一章
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適当に作った旗を地面に突き立てて、この島を完全に自分たちのものにした。
大仕事を終えた俺は生えたての草に寝転んで仮眠をとっていると、いきなり鼻をつままれて飛び起きる。
驚いて回りをきょろきょろ見回すと、楓が目の下にくまを作って笑っていた。
どうしたのかと思い、楓の指差すほうを見ると小さな木造の家が出来ていた。

「これ、お前が作ったのか?」
「すごいでしょ?今日は疲れたからこの程度だけど、明日からは・・・」
「すごいな!どうやって作ったんだ?木はどっから出したんだ?俺、こんな事できないぜ!」
「・・・すっごいでしょ!?中入ってもっと驚いて!」

中に入ると、更に驚いた。暖炉にテーブル、ベッドまである。
西洋の絵本の中に入った気分だ。床にはカーペット、キッチンには料理器具がある。
玄関もちゃっかり用意されているが、靴を脱いで中に入ると不思議と暖かかった。

「金属類は落ちてた石を使ってね、ここの木はあのリンゴの木の枝を一本貰ったんだ」
「枝一本?それがどうして家になったんだ?」
「このツノ、すっごいことが出来るんだよ?」

そういってまた笑った楓のツノは、今朝より少し大きくなっている気がする。
どうしてだ?楓のツノはどんどん多きくなっている。
自分のツノを触ってみるが、何も変化は無い。
まぁ、いいや。とにかくこの部屋で眠ろう。久しぶりにまともなところで寝られる。

「ありがとう、お疲れ様。明日は昼まで寝ようぜ」
「私もそうしたいけどさ、おとといの夜に名前のお父さんに電話したら、こういう小さな島国には直ぐに海外の奴が乗っ取りに来るって言ってて・・・」
「そうか・・・、んじゃあ、そのときは俺がきちんと挨拶してやるよ」

だから、寝ようぜ。と言ってベッドにもぐる。
俺だって心配だ。やっと手に入れたこの島を乗っ取られるなんて。
けど、楓には今日のほうきのこともあったしとにかく休んで欲しかった。
楓の体調が悪くなるなんて事があってはならない。


・・・


こんなに朝早くに起きたのは妙な胸騒ぎがしたからだ。
家から外に出てみると、金髪の大柄な男が立っていた。
英語圏っぽい見た目をしている。もちろん英語など離せないが、魔法で何とかできないか試みた。
イメージしにくいが、あれだ。ドラえもんのほんやくこんにゃくみたいに相手の言う事が日本語のように聞き取れればいい。

「やあ、ここの持ち主は君かい?俺はアメリカ。話があってきたよ」

その見た目からは不釣合いなほど流暢な日本語が聞えた。
一応成功らしい。こっちの言葉が通じるかまだ分からないが、普通に返してみる。

「・・・俺は、名前だ。あんたは敵か?客か?」
「今日の用事で言えば、敵だろうね」

ちゃんと通じた事に安心したが、それと入れ替わるように不安が吹き込んできた。
胸騒ぎの原因はこいつで間違いないようだ。
しかし、最近変な名前の人が多い。覚えやすくて好都合だ。
砂浜を見てみると救命ボートでここまで来たらしい。遠くに大きな船が見える。
話の内容は予想できる。ここの領土についてだろう。

「敵なら中にいれるつもりは無いが?」
「いいよ。今日聞きに来た事は直ぐに話がつくからね。ずばり、ここの領土は俺のものだよね?」
「違う。そこの旗の通り、この島は俺たちのものだ」
「・・・俺“たち”?」
「聞えなかったか?答えはNOだ。分かったなら帰りな」

俺はこいつの全てを警戒していた。やっと手に入れた場所を奪おうとするこの男を自分でも驚くほど恐怖の対象としていた。
魔法をかける準備を自分の中で着々と進める。
なんとしてもこの男を家には近づけない。
この男がどういう行動に出ようと、脳の命令一つでこいつを船の近くまで突き飛ばせる。

「悪いね、それは出来な・・・」
「帰れ」

自分の声と共に、目の前の男の体は宙に浮いた。
そのまま予想通りに砂浜に倒れこむかと思ったが、誰かにぶつかり倒れた。
よく見ると、いつの間にか二隻目のボートが見えている。
・・・面倒だ。このままボートに乗って帰ってもらおう。
そのままもう一人を良く見ないままに二人を同じボートに乗せ沖へ放った。

「名前さん!私です、日本です!話だけでも聞いてください!」
「・・・あれ?」

聞き覚えのある声が聞える。と言うより、見覚えのある人が見える。
あれは、よくお世話してくれた日本さんだ!
俺は急いでほうきに飛び乗り、ボートまで飛んだ。

「日本さん、ごめんなさい。よく確認せずに失礼な事・・・」
「いえ、良いんです。いきなりこんな人が来れば驚いてしまうのは仕方がありません。ですが、私も同じ事を話しに来たのです」
「・・・この島は俺達のものです。他の誰でもない、俺達の。」
「あなたならそういうと思いました。しかし、このままでは恐らくここに居る彼より話の通じない人達もやってくると思います」
「建国宣言すればいいですか?そうすれば放って置いて貰えますか?」

それは難しいでしょう、と日本さんは言った。
それを聞いて胸にどんよりした何かが渦巻き始めた。
何故放って置いてくれないんだ、ただそっと人生を過ごしたいだけなのに。

「・・・君たち、さっきから僕のこと無視して無いかい?このままだと占領しに行くから覚悟しておくんだぞ!」
「それに勝てばいいですか?なら勝ちます」
「せ、戦争はいけません。話し合いで・・・」
「大丈夫さ、フランスやイギリスを誘えば君は参加しなくてもいいんだぞ。」

まぁ、君の建国宣言は世界に向けて発信しておくよ。と更に付け加えた。
・・・この人、簡単に言うなぁ。まるで自分が国みたいな態度だ。
・・・ん?いや、まさか。そんな分けない。
とにかく、ここまで来たのなら誰にも邪魔はさせない。

「俺はそろそろ失礼しますね。」
「はい。朝早くに失礼しました」

家に帰ってみると楓はまだ寝ていた。
それから俺は、静かに椅子に座りぼんやりとこれからのことを考えた。
途方も無い戦争の繰り返しが簡単に予想できた。
ずっと勝ち続けられるわけが無い。だけど、せめて死ぬときはこの島の土に倒れこみたい。
そんな馬鹿なことを考えたが、次の瞬間にはこの島と楓を守らなければと強く思っていた。


・・・


世界中に報じられた、小さな国の宣言は世界中で笑い話となった。
一日にして島を作り上げ、建国宣言をしたもののアメリカに大口を叩き今にも消えそうだ、と。
そのニュースは良い意味でも悪い意味でも各国の目に付いた。














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