魔法の国の作り方

□第二章
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電話で連絡を取ってから言われた場所まで大急ぎでほうきを走らせた。
家を出るときに楓にもし島で何かがあったら合図が出るからと渡された指輪を気にしながらだったので多少着地が雑になったが気にしない。
落ち着いてベルを鳴らすと直ぐにアメリカが客間へ通してくれた。
進められるままにソファにすわり、話を始めた。

「どうしたんだい?そんなにあわてて」
「実は、昨日ロシアが来て、宣戦布告をされたんだ」
「本当かい?」

アメリカはうーん、と唸りながら部屋を歩き回った。
そして、一通の手紙を俺に手渡した。
それを開いてみると三枚で書かれた何かの手紙だった。
名前の所を見ると、Russiaと書いてあった。
ロシアから送られてきたものであろうと気付くが、内容は読めない。

「悪いが、字は読めなくて・・・」
「じゃあ、俺が読んであげよう。
日頃から仲良くしてくれるアメリカ君へ

今日手紙を渡したのは他でもない名前の島について。
僕は、君が惜しくも負けてしまったあの島が欲しいと考えてるんだ。
そのために、協力を頼みたい。もちろん、成功した暁には君の望むものを島以外なら何でもあげるよ。
もちろん、僕だけでも十分なのは分かりきっている。だけど、ペンをもって書かれた物はまさかりをもってしてでも打ち砕けないと言うように、
これから育まれる者の為には事実が必要だと思うんだ。
あの島の住む二人には今から会いに行くけど、きっと拒まれるのは目に見えてるし、宣戦布告すれば君の所へ行くと思うから、
もしも君の返事がイエスならこの手紙を彼に見せても構わない。
決断は君に委ねるよ。僕は君みたいに強制するのは得意じゃないからね。
じゃあ、いい返事待ってます。君の客間で。」

何が戦友だ。クソッタレ。
俺は直ぐにでも目の前のアメリカに問いかけたかったが後ろから伸びてきた手が俺の口を封じた。
後頭部に何か柔らかい布のような物があたる。
一番に連想したのは昨日見た男が見につけていたマフラーだ。
そのまま頭のてっぺんにゆっくりと重みがかかる。
呼吸と共に僅かに動くそれは人の頭だと分かった。
俺は恐怖で動けなくなった。
魔法を使って、この場から離れようと試みる。
が、その瞬間に何かに押さえつけられているように体が重くなった。
逃げ出そうにも立ち上がれない。
せめて、小刻みに震える肩を感づかれないように息を殺して、更に閉塞感が増す。

「アメリカ君、うれしいな。また君と協力できるなんて・・・」
「本当は彼の家で取れるリンゴを輸入してからが良かったけど、来るのが早かったから仕方が無いんだぞ」
「あ、大丈夫だよ。家の前のほうきはちゃんと処分しておいたし、君の彼女が寂しくないようにお家にも人を送ったからね」

そういってロシアは俺から離れて、俺を覗き込むように横に着く。そして、アメリカが視界から消える。
ロシアの手には良く分からないが蛇口付のパイプが握られている。
ふと見ると、指輪の石の色が青から赤に色が変わった。
そしてじんわりと指輪から熱が発せられる。
楓、これは大した発明だ。頼む、帰るまで持ちこたえてくれ。

「折角アメリカまで来たんだ。お茶でも付き合って行ってくれよ」
「わ、悪いな。一般家庭で育ったもんで、その、礼儀は知らないんだ。またきた時にでも・・・」
「そんなの気にしなくていいよ。僕らが教えてあげるから。ね?」
「あぁ、自分の家だと思ってゆっくりしていってくれよ」

アメリカは、俺の目の前に置いたティーカップに溢れんばかりに熱々のお茶が注いだ。
それにロシアは俺からそっと離れると
ティーカップに添えるように大き目の入れ物に入ったイチゴジャムを置いた。
イチゴジャムの色味がグロテスクで、目が離せなくなる。
アメリカとロシアは俺を挟むように座り、通路をその長い足で完全に封じた。

「僕の家のほうを教える?君の家は君のお兄さんの飲み方になるでしょ?」
「そうだね。こっちの飲み方はイギリスに任せるとするよ」
「じゃ、まずジャムを口に入れて舐めるんだ」

ロシアはスプーンでジャムをたっぷりすくって俺の口に近づける。
口を開かない事で抵抗を示したが、ロシアは動じていない
それに、その目は笑っていない。目線で脅迫されているのが分かる。
指輪が差し出されているイチゴジャムほど赤黒くなり、指に焼け付きそうなほど熱くなっている。

「ほら、ただのジャムじゃないか口を開けなよ」
「あー、分かった。もう大きいからこうされるのが恥ずかしいんだね?じゃあ、はい。持って?」

どうやら、本当に礼儀を教えきるまで返してくれないらしい。
俺は精一杯の力で震える手を上げ、スプーンをつかみ口に入れる。
口全体に広がる甘ったるいイチゴの味と鼻から抜ける砂糖菓子みたいなにおい。
そのどれもが俺には不快だった。
口から出したスプーンはロシアが直ぐに取り上げ入れ物に突っ込んだ。

「よし、じゃあ次は一口含むんだ。」
「君が持ったらこぼしちゃうから、アメリカ君に任せてね」
「ヒーローはお茶くらい簡単に飲ませられるんだぞ」

唇につけられるカップは熱く、そこから流れ込むお茶もまた熱かった。
僅かに開けた口に流れ込んだ熱湯は強烈な匂いと苦味を発しながら口の中のジャムを引っ掻き回した。
むせ返りそうになるのを必死で堪えると口の容量が限界を迎えないうちに喉へと叩き落した。
喉がひり付く感覚と、胃に熱いものが流れ込んだ感覚を確かめると、更に傾けらるカップに目を見開いた。
口に入りきれないお茶が口の端からこぼれ、あごと首をなぞって服に染み込んだ。
飲み終わると、肩の痙攣がさっきより酷いのに気付いた。

「さ、まだまだもてなしは用意してあるんだ」
「服汚れちゃったね。着替えなきゃ」
「ん?眠いのかい?くつろいでくれてるようでうれしいよ」

曇っていく視界はとめどなく水面のように歪み、やがて何も見えなくなった。
その後自分の意思に反してぐらりと体は倒れて意識は途切れた。














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