魔法の国の作り方

□第五章
1ページ/7ページ










日本が探してくれた場所に行ってみると、不思議な気持ちになった。
見覚えのある風景だが、明確には思い出せない。
少しづつ歩いていくと、通りすがりの人が俺を見てどこかへ走り出した。
もう慣れた事なので今更何も感じない。

「にしても、のどかな所だな。町って聞いてたけど近くに牧場もあるぞ」
「日本の中でもかなり田舎の方だと思うよ」
「どうだ?」
「あんまりピンと来ないけど、見覚えはあるような気がする」

プロイセンの提案で牧場に行く事にした。
何か思い出すかもしれないと言っていたが絶対に自分が行きたかっただけだ。
着いた牧場でプロイセンが放し飼いの羊を追いかけているところを眺めていると、
前にも似たような光景を眺めているような気がして必死に思い出してみた。
軽く頭に触れると、いつか見たような映像が頭の中を巡った。

学生服を身につけた楓が羊とたわむれている様子だ。
追いかけるのに夢中な楓は転んでべそをかきながら俺のところに戻ってきた。
そんな楓に駆け寄ると、汚れたひざや手の土を払って子供にするようなおまじないをかけた。

「これで痛いのなくなったろ?もう泣くなよ」
「名前は魔法使いだね。本当にもう痛くない」
「もう帰ろうぜ。明日はテストだしさ」
「もうちょっと居よう」

「テストより名前と遊んでる方が楽しいよ」

そう笑った楓の頬は涙で濡れていた。

それを思い出して俺は胸が締め付けられるような悲しみでいっぱいになった。
このままでは楓ともう一度笑いあうことは出来ない。
もしかするともう二度と会えないのかもしれない。
もし、アメリカがロシアに楓を渡してしまえばそれは現実になるだろう。
パーティーでイギリスはああ言ってくれたがこれからのことは分からない。
あの日だってアメリカはロシアと組んだ。
可能性はゼロではないんだ。利害さえ一致すれば誰でも協力するはずだ。

胸の寂寥は風となって吹き荒れ、風に乗った松の種が心を強く叩いた。
強い不安がしぶきを上げて押し寄せてくるような感覚に惑った。
俺は芝生の上に横になり、必死に深呼吸をした。
俺の中でどれだけ楓が大きな存在なのかを再確認させられる。
ただ想像しただけでこんなに揺さぶられてしまう俺だ。
現実になったら死んでしまうかもしれない。
今からでも遅くはない。なんとしても楓を取り戻さなければ。

「おい、大丈夫か?」
「…大丈夫。ちょっと前の事を思い出してた」
「どんな事だ?」

今見たことをプロイセンに話すと、プロイセンは立ち上がり走り出した。
どうしたのかと思えば、俺の目の前でわざとらしくこけて見せた。
そして俺のほうに歩いてくる。

「俺にもおまじないかけてくれよ」
「うざいの、うざいの、とんで行け〜」
「任せろ!俺様が飛ばしてやるよ、感謝しろ!」
「や、止めて!羊の方に投げないで!羊が興奮しちゃったら大変だから!止めてぇ!!」



そんなこんなで日が傾くまで牧場で思いっきり遊んだ俺とプロイセンは目的を思い出して、住宅街を歩いていた。
胸が高鳴っているのが分かる。ここら辺に俺の家があるはずだ。
緊張に似た感覚だ。落ち着かなくなるし手に汗をかいてしまう。
そして一軒の家に目が止まった。夕日を受けて薄いオレンジに染まった壁はそっと俺の記憶の錆をとって行く。
毎日、良いことがあった日もそうでない日も必ずここへ帰っていた。
ドアを開ければ母さんや父さんがいて、毎日俺を守ってくれた。

そう懐かしんでいると、魔法も使っていないのにドアが開いた。
中から見覚えのある顔が出てきた。それは間違いなく父さんだ。
父さんは俺を見て、微笑んだ。手招きしているのを見て俺は歩き出した。

「父さん。ただいま」
「おかえり。随分顔つきが変わったな。そちらの方はお友達か?
まぁ何でも良い、中に入って今までのことを聞かせてくれ」
「うん。ほら、プロイ…」
「あぁ、お邪魔するぜ」

少しくい気味にプロイセンは返事をしてあがった。
そして上がる時にプロイセンは小声で俺に俺のことはギルベルトと呼べと言った。
理由を聞こうとしたが、父さんに急かされて俺は聞きそびれた。

「名前!元気だった?あら?少し痩せたんじゃない?」
「いや、体つきがよくなったな。大変だったもんなぁ」
「知ってるの?」
「もちろん、だって毎日のようにニュースで流れてるもの」
「そ、そうなんだ。なんか恥ずかしいな」
「あら、ごめんなさい。お客さん、お名前は?」
「ギルベルトです。名前とはしばらく一緒に生活していました」

け、敬語だと…?
あのプロイセンが敬語を使うなんて信じられない。
ちょっとした気恥ずかしさを感じて目をそらした。

「そうなの?ごめんなさい、私この子に簡単な料理しか教えてなくって」
「いえ、料理も上手で素直で良い子ですよ」
「恥ずかしいからそんな話止めてよ!」
「なんだ、照れなくても良いじゃないか。折角ほめてやってるんだぞ?」
「うるさい!」

その後、俺は父さんと母さんに今までのことを話した。
島を作って国を建てた事や、いろんな国と戦った事、今の状況なんかを話した。
国っていう人のことは説明しきれないので省いたが、今思えば不思議な存在だ。
魔法を使う俺が言う事でもない気がするが。

「…不思議だな。あの名前がこんなに国の名前を言えるようになるなんて」
「本当ね。数学で赤点を取るような子が今じゃ貿易してるなんて」
「あんなひよっ子だった奴が、戦場で立ち回るなんてな」
「何を皆でしみじみしてるの」
「戦場か。父さんは経験した事がないが、そうか、名前が…」
「俺、戦場に出た事は後悔してないよ。守りたいものを守ったんだ。けど…」
「母さんと父さんは何も言わないわ。貴方が決めたことを責めたりなんかしない」
「そうだ。お前の国の戦争のニュースを見たときな。母さんと話し合ったんだ。
名前は必ず傷ついているはずだって。もし帰ってきたときは全てを受け入れようってな」

俺が犯した罪を事を二人は優しく受け止めてくれた。
戦争とはそういうものだと父さんは言った。
歴史を見ても何の傷跡も残らない戦争はない、お前も例外ではなかったという事らしい。
相変わらず長い話だったが、内容はちゃんと理解できた。
父さんは決して戦争をした俺のことを褒めてはくれなかったが、慰めてくれたのだ。

「母さんね、二人が研究してるって聞いてビックリしたのよ」
「そうだね、戦争がある前までは毎日研究室に二人してこもってたな」
「楓の発明はちょっと個性的過ぎるけどな」
「あ、あぁ。アレか。そうだな」
「え?どんなの?」
「い、いや!気にしないでよ!」
「そうだな。アレはちょっと親には言えねーな」
「何その言い方!すっごく気になっちゃうじゃない!」

流石に、一目惚れ眼鏡だけは言えない話だ。
プロイセンも苦笑いしながら目をそらしている。
楓のあの発明は一体何の為に生み出されたのだろう?














次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ