魔法の国の作り方

□第七章
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腹痛に悶えて目が覚めると、部屋にはプロイセンがタオルをぬらしていた。
ここ最近は胃痛に加えて発熱するようにもなった。
胃潰瘍と風邪を併発するなんてついていない。
もう何日ここで横になっているんだろう。
そう思いながら駄目元でタオルに手を伸ばした。
案の定そのまま掴まれて手を拭かれる。
こうなったらもう何もさせてくれない。

「今日は結構体調が良いんだ。自分でやるよ」
「じっとしてろ。今日は時間が無いんだ」
「何かあるのか?」

俺の問いを無視してプロイセンは俺に馬乗りになり、シャツのボタンを外し始めた。
初めこそ自分で脱ぐように言ってくれたが、そのつどこの後は自分でやると言い張った結果だ。
最早脱ぐ事も自分ではさせてもらえなくなった。
今日は随分乱暴な手つきのあたり、本当に時間が無いのだろう。
仕方なく、ズボンに手をかけて腰を浮かせて脱いでいると、寝室のドアが勢いよく開かれた。

「おい、兄さん。下はもう準備が出来たぞ」
「ヴェ!駄目だよドイツ!取り込み中だよ!」
「ん?…すまない。出直す」

いきなりの出来事に呆気に取られていたが、今かなりヤバい勘違いをされた気がする。
プロイセンに目をやると、同じ事を考えていたらしい。顔が死んでいた。
しばらく沈黙した後、プロイセンはまた手を動かし始めた。

「いや、誤解解かないと!」
「時間がねぇって言ったよな?あの二人には後で俺が話をつけておいてやる」
「そっか、良かった」
「お前はしらねぇけど、俺はゲイじゃない」
「俺もゲイじゃない!」



「…よし。もうすぐしたら呼びに来るから軍服に着替えて置けよ」
「え、なんで?」
「今は黙ってヤーだ。いいな?」
「…やー」

そういってプロイセンは俺の軍服を手渡して部屋から出て行った。
あの二人の誤解を解くのはプロイセンに任せる事にしよう。
ん?二人?待てよ、何でイタリアがここにいるんだ?
まさか、寝込んでる間に戦況が変わったんじゃあ…。
そう考えるとじっとしてられず、ベッドの上で立ち上がった。
下に様子を見に行きたいけどベッドからたった時点でプロイセンから怒られる。
どうにも出来ないと諦めて服を着替えた。
楓から貰ったこの服は着て行った後必ず解れや破けている所がないか確認している。
当たり前だが、今日も完璧だ。

再びベッドの上で立って確認していると、後ろの窓が勢いよく開かれバルが俺を加えて引っ張り出した。
訳も分からないうちに上に放り投げられ、パニックになっているとバルが背中でキャッチした。
肌が鱗につかないように受身を取りながらいつも乗っている鞍によじ登ると、やっと周りが見れた。
家の外には何人か人がいて屋外パーティーのようにいくつかのテーブルを囲んでこちらを見ている。
とにかくバルに着陸してもらって降りてみるとプロイセンが寄ってきた。

「こ、この人たちは?」
「俺の知り合いの友達だ。挨拶して来い」
「そうじゃなくて、何で島に人が?」
「なんでって、今日クリスマスじゃねぇか。パーティーだよ」

そういって背を押されてパーティー会場となった庭に行った。
知ってる顔も確かにいるが、初めましての奴が多い。
未だに状況が飲み込めないが気を取り直して挨拶に行く事にした。

「おお!お前が竜騎士団か!俺はスペインや。敵やけどよろしくな!」
「あら、竜騎士団さん?私はハンガリー。敵だけどよろしくね」
「その節はお世話になりました。改めまして、オーストリアです。敵ですが…」
「おい、プロイセン!敵しかいないんだけど!?」
「そりゃあ、お前の味方っていえばヴェストくらいだもんな」
「じゃ、じゃあ他の奴も…」
「ああ、あそこの中国もイタちゃんもだな」

それを聞いて急に腹に激痛を覚えた。
堪らず倒れそうになったところをドイツが受け止めてくれた。
それに体がだるく、汗が滲むように体が熱い。
ちょっと動いただけでこの様だとかなり重症かもしれない。
ドイツには礼を言って、プロイセンにやっぱり部屋で休むと伝えた。

「おい、折角のクリスマスパーティーだぞ?良いのか?」
「言っただろ、祝ってるような場合じゃないんだ。少しでも早く病気を治して働かないと」
「料理だけでも食べたらどうだ?」
「俺はいい、皆で食べてくれ。敵だらけでも、今日はここを襲いに来たんじゃないんだろ?なら、好きにしてくれ」

俺はふらつく足取りで部屋に戻るとベッドに倒れこんだ。
この服のまま寝るわけには行かない。
脱いで元の場所にたたんで直し、寝巻きに着替えてもう一度ベッドにもぐりこんだ。
咳をした拍子にまた手が汚れたが、それをどうする気力も無く痛みが引くことを祈って目を閉じた。


・・・


「本当にあんなひょろいのがロシアと喧嘩しとるんか?今にも死にそうやったけど…」
「時々無謀だけど結構やるんだぜ、あいつ」
「体には気をつけて欲しいけど、敵だから何も出来ないわね」

やっぱり今のあいつにわざわざ敵と会わせる様な事は止めた方が良いな。
最後なんて酷い顔をしてた。元気出させようとしたんだけどなぁ…。
パーティーを適当に盛り上げつつ、様子を見に部屋に戻ってみると名前は寝ていた。
枕やシーツが血で汚れている。よく見れば名前の手も口の周りも汚れている。
ずり落ちている布団をかけなおして、またタオルを濡らして汚れと汗を取ってやった。
シーツなんかの洗濯はヴェストに任せよう。

苦しそうに寝息を立てるこいつの親父の事を思い出していた。
こいつはまだまだ戦争と言うものが分かってない。
それでも相手は容赦なくこいつの体に傷を残していく。
今、こいつはどれだけ不安だろうか。どれだけ焦っているだろうか。
まさに死に物狂いなこいつに何をしてやれるだろう。
しばらく考えた末に俺はパーティー会場に戻った。


・・・


翌日、久しぶりに腹痛以外で目が覚めるとベッドの隣に鮮やかな箱で小さな山が出来ていた。
何かと思って一つ手にとって見るとメッセージカードに何か書いてあった。
全く読めないが、国旗の絵を見る限りイタリアだろう。
別の箱を手にとって見ると、活字のような丁寧な字が書いてあった。
間違いなくドイツだ。読まなくても分かる。
まさかクリスマスプレゼントか?
ドイツの箱を開けてみると中にはそこそこ大きいくまのぬいぐるみが入っていた。
ドイツの方の服だろうか、半ズボンにサスペンダーをして、羽根つき帽を被っている。
あまりにも愛らしい見た目でこいつに魔法をかけようと決めた。
今は杖が無いからたいしたことは出来ないが、杖を取り戻したらこいつに命を吹き込もう。
良いお手伝いさんになってくれるに違いない。

「お、もう見つけたか」
「ドイツ!なぁこいつの名前は何が良い?」
「な、名前か…」
「杖が戻ったら魔法をかけて動くようにしたいんだ。その時は呼び名がいるだろ?」
「そういうことか。…そうだな、ベルンハルトはどうだ」
「じゃあこいつの名前はベルンだな!」

絶対に病気を治して杖を取り戻してやる。
ベルンをベッドの片隅に座らせてイタリアの箱を開けようとしたとき、ドイツの携帯がなった。
何か難しい事を話している。聞くつもりは無かったが、うっかり耳に届いてしまった。

「フランスがロシアに攻撃されて…?何故だ、奴は…」

それを聞いて前に使っていたリンゴの木の杖を取り出し、軍服を取り出して窓から笛でバルを呼んだ。
その場で寝巻きを脱ぎ捨てて、バルに乗りながら着替えた。
更に笛を吹いて竜たちを連れて最速で飛ばした。

「急げバル!フランスだ!」

間に合え…!これ以上壊されて堪るか!














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