魔法の国の作り方

□第八章
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アメリカが帰ってきてから会議が再開されたが難航の色を見せていた。
島と人質を返すよう主張する俺に対し、それに反対するロシアとアメリカ、イギリス。
最早無償で働くべきだと主張し始めた奴もいる。
鬱陶しい。人に物を頼む態度ではないだろう。

「今までお前が出してきた被害を考えるある!」
「俺は戦場に立った兵士以外殺していないが」
「兵士だって人間ある!死にたくなかった奴もいたあるよ!」
「死ぬ覚悟も無い兵士を戦場に立たせるほうが悪いだろうがそんなもん」
「竜なんて生物兵器を持ち出すほうが倫理的に…」
「生物兵器じゃない!大事な兵士だ!」

俺はやけに噛み付いてくる中国と口論になっていた。
特に印象は無いけどなんなんだこいつは…。
口論が激しくなりそうなとき、ドイツが俺をたしなめた。
確かにここで声を荒げてもあちらの思う壺だ。
落ち着いて冷静にならなければ…。

「とにかく俺の主張はさっきの通りだ。曲げるつもりは無い」
「仕方が無い、楓と島は返す方向にしないかい?このまま戦争が続いても国内で起きる犯罪は減るわけじゃない」
「返してくれるんだな」
「ただし、問題が解決したらだ。これが俺たちに出来る最大の譲歩だ」

俺と同じツノを持ってる奴らをどうにかしたあと、まぁ約束されたのなら良いだろう。
俺はもう一度よくアメリカの目をよく見た。
嘘をついている様子は無い。俺の目まっすぐに見つめている。
昔の裏切りも水に流した事だ。それを除けば十分信頼できる相手だ。

「分かった。犯した罪に対する処罰はそれぞれの国の司法に任せる。俺がするのはそいつらの逮捕と魔法の封印だ」
「魔法を封印なんて出来るのかい?」
「特別な道具が要る。楓に伝えてくれれば作ってくれるだろう」
「その際、島に戻る必要はあるのかい?」
「あるだろうな。そのときはそっちの都合に合わせる。いいか、約束は絶対だ」
「もちろん。君を裏切りはしないよ」
「次こそ頼むぞ。お前を信じてる」

俺は各国の犯罪のデータをよこすように伝えた。
その瞬間に俺は終戦を向かえ、同時に魔法犯罪逮捕措置権を得た。
つまり俺は、魔法の関連したと思われる犯罪を解決する義務を負い、犯人を逮捕・魔法の封印が出来る権利を得る事になる。
魔法の封印は楓が島を去ったときに俺のツノにつけたあのリングだ。
魔法を作るときにバルの尻尾を包んだあの金属でどうにでもできるだろう。
そして、島での報告と準備のために俺は会議が終わる前にバルを呼び出した。



俺は島に戻ると、すぐにプロイセンに会議の内容を報告した。

「じゃあ、お前は魔法で悪い事してる奴をぶちのめせば島も何もかも帰ってくるって訳か?」
「つまりはそういうこと。だから戦争も終わり。後はこの資料を基に洗っていくしかない」
「これは?各国の犯罪データ?」
「多分魔法が関連してると思われるものだ」
「何で魔法が関連してると分かる?」
「今までは特殊犯罪とか、難解事件とかになってたらしいけど、共通点があった」
「全ての事件にか?」
「そう。目撃者が全員、ツノが生えた犯人を見たといってる」
「ツノを持ってるのに隠しもしなかったって事か」
「それに加えて目撃された犯人の八割が子供の姿だった」
「同一人物って可能性は?」
「恐らくない。時期や見た目の特徴からして複数犯だ」

会議から数日後、俺の元へ魔法封印用のリングが送られてきた。
それはサイズが調節できるように設計されたものだ。
それと同時に薬を作るとき、バルの尻尾につけていた装備がなくなっていた。
楓の置手紙には、今まで勝手に研究道具や素材に手を出した仕返しだと書いてある。
これから魔法製品をどうやって作ろうかと悩みが増えたが目の前の仕事に集中した。
俺は魔法犯罪の被害にあった全ての国に詳細な情報を逐一集めて周り、その都度、その国と話し合いを進めた。
なんといってもその国の土地勘は俺より圧倒的に勝るのが何百年も住んでる奴だ。

細かな情報を追うときは必ずロシアン帽のように耳まで隠れる帽子で角を隠した。
そうでなければすぐに俺が通報されてしまう。
そして、俺は調査を重ねていくうちに一つの組織の存在を知った。
それが社会から迫害された者達の集団だった。
その存在を知る人たちは皆、角人間のたまり場だといった。
老人から子供までツノを頭に持っている人たちが隠れて暮らしているらしい。
俺は装備を整えて早速突入する事にした。
目的地付近、俺は協力してくれる皆に無線で連絡を取った。

「よし、突入する。作戦通り、何かあるまで持ち場は守ってくれ」
「了解だぜ!今日の為に日本にドラマいっぱい借りて張り込み用のヤキソバパン買って来たんだ」
「プロイセン君、食べすぎで動けないなんて事に気をつけてくださいね」
「俺のことは刑事と書いてデカと呼べ!」
「兄さん、唯でさえイタリアの面倒で大変なんだ。大人しくしていてくれ」
「プロイセン刑事ってかっこいいね!俺もイタリア刑事がいいな」
「じゃあ、俺はアメリカンヒーローだ!」
「お兄さんはマジカルストライキでお願い」
「お前等真面目にやれ!名前の指示が聞こえないだろうが!」
「ありがとな、眉毛刑事」
「誰が眉毛だ!」

チームワークは最悪だけど個々の能力は高いはずだ。
協力してくれる奴には、俺と楓お手製の魔法が効き難いアクセサリーを渡してある。
それで犯人グループの抵抗があっても大丈夫だろう。
俺は組織の建物のインターホンを押した。

「おい、バカ!正面から入っていく潜入があるか!」
「え、だって変に魔法を使って感付かれたくもないでしょ?」
「確かにそれもそうだが…」
「あ!見て見て、ドイツ。あそこにベッラがいるよ」
「え、それってイタリアの地点か?それならお兄さんと口説こうぜ」
「今はプロイセンの地点だよ〜」
「おい、持ち場を離れるなよ」

うん。予想通り緊張感なんて微塵もない。
何でもうちょっとマシなメンバーが来なかったのかな?
胃がジクジクするのを感じて気が重くなる。
そして俺は内側からそっと開いた扉の奥に男がいるのに気付いた。
見たとおり、男にはツノが生えている。

「すみません、今日は…」
「お前が来ることは分かっていた。中に入れ」
「…お、お邪魔しまーす」

男に通されて薄暗い通路を歩いた。
地下に降りた所で複数のろうそくの光に囲まれた老人のいる部屋に通された。
ろうそくの光は暖かなのにこの部屋はやけに気温が低い。
鳥肌をさすりながらやはりツノのある老人の前に立つと老人はゆっくりと目を開けた。

「おぉ、よく来なさった。貴方が予言にあった反撃者様」
「反撃者?」
「あなたは私達のような陰の存在を明るみに出してくださる存在。そう予言にあります」
「予言って誰の予言だ?」
「私達にツノを下さった神の予言です」
「ツノをくれた神?何の話だ」
「本当に予言の通り。貴方は私達とは違い人として生まれツノを持った。いや、人でありながら我らの同胞の好意を裏切り、ツノを奪った存在。
つまり、その罪をそそぐために我らに尽くす新たな刃なのです。貴方は世界を我が物にせんと全ての戦いに打ち勝ち人間の上に立つ予言に守られた…」

「すんません。長いんで省略してもらっていいですか」
「要約すれば、貴方はこの預言書の反撃者という無敵かつ無限の存在なのです」

俺に差し出した古い本を受け取ると、眼鏡をかけてから開いて確認した。
するとそこには島を創造するところから俺と似通った行動をする男の話が載っていた。
が、俺と違うことはこの男は誰にも負けていない事。
一度も自分より上に人をつくていないと言う事だった。

「この予言通りに行けばあなたは必ずや私達の剣に…」
「いや、この男は俺じゃないっすね。俺、ロシアとかの国の前に一回負けましたし」
「そ、そんなはずは…あなたは反撃者なのだ!これから私達を光へ…!」
「これからお前達が行く所は警察だ。世界中で多発している不可解な事件の重要参考人としてな」
「な、何を言っておられるのですか、あなたは…」
「いいか、じいさん。俺がやってることはお前達を救うことじゃない。奪われたものを取り戻す事だ。
あんたが言ってるような正義のヒーローじゃないんだ。俺のものが戻ってくるならお前達は正直どうなってもいい」
「しかし、予言では…!やめろ、そんな物を近づけるな!」
「いい加減気付け!俺がロシアに負けてるところでこの預言書は間違ってるんだ!」

俺は暴れる老人にリングをつけた。
その際に老人は俺を案内した男に俺を止めるように命令した。
体格のいい男だが俺の敵ではない。大きく振りかぶる隙を狙って俺はリングをつけた。
それから無線で全員に突入指示を出した。

「幹部っぽい老人と部下っぽい男を一人ずつ確保した。それぞれ作戦通りに突入してくれ」
「やっとヒーローの登場だぞ!」
「全員と魔法の腕比べしてやるぜ」
「ケセセセ!刑事ってのは銃をバンバン撃ってもいいんだろ?」
「我が家では一発打つだけでおびただしい量の始末書です」
「兄さん!拳銃だけは抜かないでくれ!」
「そうだよ、プロイセンなら素手で勝てるよ〜」
「そうか?イタちゃんが言うなら俺様頑張るぜ!」
「お兄さんは高見の見物かなぁ」

地上の建物の色んな所から窓が割れる音だったり叫び声だったりが聞こえる。
俺はリングをつけた男が殴りかかっているのに気付き杖を取り出した。
老人と一緒にしばらく空中に浮いていてもらおう。
地下を調べていると一冊の本を見つけた。
魔力の付与と剥奪の方法と言う本だった。
気になってそれを開いてみると俺はいつかの記憶を思い出した。
暗闇の中で横たわる俺と床に書かれた模様。
その模様がこれにそっくりだ。魔力の付与と剥奪の際の注意点として書かれているのが、答えだった。
魔方陣の呪文となる分に欠落があれば魔力の流動が逆になる可能性があると。
俺、あのときに余計なことした気がする。














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