魔法の国の作り方

□第九章
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この島を作って四回目の冬だ。
でも、初めて楓と過ごす冬だ。今まで二人で居た時間はとても短い。
だからこそ、今年はゆっくりとした良い時間を過ごしたいのだ。
初雪にはしゃぐ希にそれを淡々と絵にする翼。
それを肩を並べて眺める時間がたまらなく好きだった。
今までの冬はろくな事が無かった。ロシアの攻撃に悩まされたり、治りかけの胃潰瘍が再発したり。
雪と一緒に面倒事が降ってくるのだとプロイセンに嘆いたときもあった。
そんなジンクスは今年で終わりだ。なんたって今年はクリスマスをやろうと思っている。
遠くからベルの音が聞こえてきて、トナカイが引くソリにのったサンタクロースが…。
…ん?遠くから何かエンジンみたいな音が…。

「名前!戦闘機が来てる!」
「楓、子供達を地下に!俺が挨拶してくる」
「すぐに戻ってきてね…」
「約束する」

俺が笛を吹こうとするとバルが自分から飛んできた。
そのまま飛び乗って戦闘機に信号を飛ばす。
あの戦闘機は既に領空を侵攻している。
形や中の兵の服装からイギリス空軍である事に気付く。

「そこのイギリス戦闘機に告ぐ。今すぐこの領空から出ろ。さもないと我が国への攻撃とみなす」

応答は無い。それどころか更にスピードを上げてこちらに突進してくる。
俺はそれを避けると攻撃態勢に入った。
プロイセンの教えを思い出せ…。馬は殺しても兵は殺すな。
俺はバルに戦闘機に掴みかかるように指示を出した。
バルは悠々とそれをやってのける。俺はガラスを消して兵を引きずり出した。
戦闘機はそのまま砂浜において、俺はその兵を牢獄へと連れて行った。
とりあえず一時保留だ。牢獄から出てしばらくあたりをパトロールして異変が無いかを確かめて家に戻った。
地下室に行くと希と翼が不安そうにしながら震えていた。
二人を抱きしめて、楓に状況を説明する。

「英兵だった。今は外にいれてある」
「わかった。連絡するね」
「パパ?えいへいって何?」
「後で教えてあげような。さ、パパは仕事が出来たから二人はママの言う事をよく聞くんだぞ?」
「うん」
「翼も。な?」
「…うん」

俺は牢獄へと向かう前に竜達にこの島のパトロールをするように伝えた。
領空内を飛び回って異変があれば楓に知らせるように言った。
それから牢獄へ行くと、見事に穴を掘られていた。
脱獄なんて珍しい話じゃない。罪人の部屋は俺の魔法をもってしても抜け出せなかったんだ。大丈夫。
俺は尋問室へ移動し扉を開いた。暗闇の中男が一人膝を抱えている。
俺はそいつを魔法で尋問室の椅子まで引きずり座らせて拘束した。

「初めまして。俺がツノツキ王国だ。君の名前は?」
「……」

兵は口を閉ざしたまま何も言わない。
その目は恐怖と敵意に満ちている。予想通りだ。
こいつは何らかの目的でここに攻撃を仕掛けてきた。
…プロイセンの教えを信じてとにかくやってみよう。
尋問室でのマナーや、尋問される兵との仲良くなる方法。
それら全てを俺は頭の中で整理しながら話しかけた。

「安心してくれ。今君にかけている魔法は全て形式的なものだ。君に疑心があるわけじゃない」
「……」
「今から俺の聞く質問に全て答えてくれれば君はすぐに家に帰れる。君が望むならどんな形でもね」

そこまで言って、俺は兵に背もたれが向くように椅子を置いた。
そして背もたれに体の前面を預けるようにして兵と向き合うように座った。
あくまでリラックスしているように診せる事。
それが尋問する側のマナーだと教わった。

「さぁ、まず初めの質問だ。いつまでもよそよそしく君と呼びたいわけじゃない。名前を教えてくれ。ニックネームでも良いぞ」
「……マイクだ」
「マイク!俺のことは名前と呼んでくれ!仲良くしよう。お互い無傷か良い。なぁ、そうだろう?」
「……」
「まだ緊張しているのかな。大丈夫だ。ここに何をしに来たのかを答えてくれればすぐに返してあげるよ」
「すぐに?」
「そうだ。だが、まぁ。君にかかっている魔法のように俺は形式を重んじる。答えてくれないならその形式をとるしかなくなる」

「君は何をしにきたのかな」
「……」
「上司に命令されたのならそういってくれ。マイク。俺は別に怖がらせたいわけじゃない」
「…お前に教えることは出来ない」
「それは回答の拒否か?」
「……」
「残念だ。出来たばかりの友達にこんな仕打ち…。心が痛むよ」

俺は立ち上がり、杖の先を男の胸に当てた。
魔力を高めながら腹の中心まで辿ると男はかみ殺しきれなかった悲鳴を漏らした。
それもそうだ。なんの形も持たない魔力なんてそのまま人肌に触れれば厳しい電流をじかに流されるような感覚に陥るだろう。
俺にも楓と喧嘩した経験があるのだ。その痛みは鮮明に覚えている。
鋭い爪で皮膚を抉られる様な激痛だ。これ以上魔力を高めればどんな痛みが彼を襲うのだろう。
杖を胸に置きなおし、先ほどの倍くらいの魔力をつぎ込んでみた。
肩を痙攣させながら叫ぶその姿に俺は圧巻された。
そんな客観的な感情に俺はどこか自分がやっていることを忘れていった。
もう一度俺は椅子に座りなおしながら聴いているのかどうかわからない彼に声を投げかけた。

「おいおい、まだ初めじゃないか。そんな調子で大丈夫か?」
「…ッ。俺はこの程度じゃ…!」
「まぁ、話を戻そう。俺が何を聞きたいのかってことを理解して欲しいんだ。
俺は教官にも褒められるくらいの話し上手なんだぜ。きっとマイクも理解してくれるはずだ。じゃあ、そうだな…まず…」



俺は牢獄に兵を戻すと、俺は家に戻った。
希と翼の二人はもう眠ってしまったようだ。
リビングでは楓が書類とにらめっこしている。

「おかえり。イギリスの情報を集めてたんだけど…。ちょっと信じたくない事ばかりで…」
「兵から聞いた話で大体分かったよ。イギリスが財政危機でここを侵略しようとしたってさ。何百年前の発想だよ」
「でも、本当にそうしようとしてるみたい」
「どうする?」
「私、イギリスとは戦いたくない…」
「お前が言うならそれに従う」
「いいの?戦わなかったらここはまた…」
「今は便利な時代でな。相手の電話番号を知っていれば話が出来るんだ」
「名前が話し合いを覚えるなんて…。これって平和革命なんじゃない?」
「バルの軍事革命から間隔が狭すぎるだろーが」

俺は兵士から聞きだしたことを書類にまとめながら、明日やることの中にイギリスと会談の予定を着ける事を追加した。
女王の楓が望むのなら、俺はそれに従うまでだ。
…もちろん、この島の平穏を壊した代償はきっちり要求するつもりだが。














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