魔法の国の作り方

□第三章
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俺は折角貰った休日をどう使おうかと悩んでいると、自分のほうきと杖が随分傷んでいる事に気付いた。
大事に使っているつもりだが、魔法と言う物が今までの植物だと馴染みのないものなのかもしれない。
新しい物を作ろうと、俺は火山に行った。
もちろん、木は森にあるが木を削り取った物ではまたすぐ痛んでしまう。
杖の芯になるものがないかと歩き回っていると、坑道から少し離れたとこりに洞窟のようなあなぐらを見つけた。
穴倉の中から坑道の石に似た声のようなアピールを感じてそっと中に入ってみた。
しばらく歩いて見付けたのは巨大なトカゲだった。
体は真っ赤で脚は鱗に包まれている。眠そうな目を除けば、羽のないドラゴンの子供のようだった。
俺が近づいてみると、トカゲはこっちを向き、ゆっくりと口を開け空洞音を立てながら息を吐いた。
あくびかと思ったが、息が当たったズボンが焦げたのを見て急いで口を閉じた。
口を足で踏んで閉じさせたが、その靴の中がむっと熱くなるほどこのトカゲは熱気を放っていた。
仕方がなく杖を取り出し、持ち上げて洞窟から出した。

外に出ると、日の光が苦手なのかトカゲは苦しそうに鳴くと、長い尻尾を切り離した。
なんとなく可哀想になり、洞窟の入り口においてやると急いで中に逃げていった。
尻尾を拾うと、その尻尾には真っ黒な骨が縦に二本見えた。
家に戻って解剖してみると、全く同じ形の骨が二本入っていた。
しかもかなりの魔力を感じる。これを芯にして杖を作れないだろうかと考えた。

森に行くと、楓とロマーノが食べれないきのこ狩りに来ていた。
森の中は歩きなれているが、きのこには細心の注意を払わなければいけない。
それなのにロマーノを連れ込むなんて、楓もなかなか度胸がある。

「なんか見つかったか?」
「うん。触ったら方向音痴になるきのこがあって、これで敵軍を困惑させられないかって思って」
「・・・で、触ったのか」
「俺はこんなの触っても方向音痴になんかならねえよ」
「待て待て待て!んなベタなフラグは良いから付いて来い!」

思いっきり森の奥へ進もうとするロマーノを捕まえ、家まで案内した。
ついでに解毒薬を作って置いたが、ロマーノは飲まないと声を尖らせていた。
気を取り直してもう一度森へ行くと、背の低い栗の木を見つけた。
枝を地面に這わせて、躓いた所に栗のみを実らせておく性格の悪い奴だ。
人が躓くごとに場所を覚えてそこに実を実らせる。
別に毒などはないがこの栗の棘は先が曲がっており、服に引っ付くと非常に厄介だ。
これに引っかかった動物に種を運んでもらおうという魂胆がみえみえの植物だ。
長い栗の枝を一本切り取り、杖の材料に持ち帰った。
家に帰ってやっとほうきも材料が足りない事に気づき、仕方なく森の中に生えていた何の変哲も無いオークの木を使うことにした。
魔法の森をいちいち歩き回るのは面倒で尚且つ疲れる。
妥協であったが、改めて魔法製品の製造に入った。



出来上がった杖の一本を楓にあげた。
これでもう少し強い魔法も正確に操れるようになるはずだ。
少し重かったので軽量のために何度も魔法をかけた。
これで手になじむように仕上がったはず…。

「なんか…、名前が作る物っていっつも遠慮がちだよね。もちろん使いやすいんだけど、インパクトが無いって言うか」
「杖にインパクト出すってかなり、不良品じゃないか?」
「ま、それもそっか。これでもっと面白いのつくれるし」

楽しそうに笑って地下室に入る楓は魔法を使った軍事武器を開発しているらしい。
反対とまでは言わないが、魔法も使い方によってこうも差が出るのかと痛感する。
俺はきっと武器を作るのには向いていないだろう。
敵を倒そうとする感情より圧倒的に守るという感情が先に出て無力化することしか頭に無い。
やっぱり、物を動かしたり何かを発生させたりする魔法の方がずっと気が楽だと確認してほうきに乗るため外に出た。

材料としては普通のほうきとしても使えるものにした。
柄のオークを太めにして足場としての安定感を高めた。
実際に飛んで見ると違いは大きかった。
どんなにスピードを出してもぶれない本体は頼りがいがあり、空中戦に向いていると感じた。
自画自賛になると承知していてもこれは最高傑作だ。


・・・


夕飯時になると、俺は牢獄に行き今朝の操縦士に夕飯を持っていった。
牢獄の中は静まり返っていて、俺の足音だけが響いている。
一つしかない牢屋の前に立つと杖で明かりを出しながら牢屋に夕食を入れた。
しかし、中の男は食べようとしない。

「別に変な物は入ってないぜ?」
「…どうだかな。そんな気持ち悪いものが使える奴の言葉なんか信じられるか」
「やっぱり、気持ち悪いか。分かった。お前の前で使うのは止めるよ」

俺はそういってろうそくを取りに戻って火をつけて牢屋の前に置いた。
そこに座って持ってきたリンゴを齧った。
それを見て男は不思議そうな顔をする。

「本当に使わないのか?」
「あぁ、別に怖がらせに来た訳じゃない。あ、他に何か欲しい物はあるか?」
「本当はワインが欲しい所だが、他の物を頼んでも良いか?」
「・・・なんだ?」
「俺の乗ってた戦闘機の中に置いて来た恋人から貰ったネックレスがあるんだ」
「取ってきて欲しいってことか?」
「その力はそういうことも出来るだろ?頼む、本当に大事な物なんだ」

「ダメだ。てめぇの国の発信機じゃないと証明できるか?」

俺が答える前に入ってきたプロイセンが頼みを断った。
今日、随分楽しんだのだろう。声が高揚している。
それに男が牢の中なのに怯えきっている。
プロイセンは牢の鉄格子をわざと音を立てて掴むと更に男を脅しかけた。

「こいつが情に弱いのに漬け込んでそんな悪い事を企んでちゃあ、毎日あの尋問室にお世話になる事になるぜ」
「で、でも、本当に大切な物なんだ。ここから帰れないのなら、せめてそれを・・・」
「だから、ダメだっつんてんだろ。聞えねぇのか?」

これは怖い。
薄暗い空間に目立つ赤い目が不機嫌に歪んだ。
男は諦めたように項垂れた。それを見てプロイセンはつまらなそうに舌打ちをして立ち去った。
あぁ、駄目だ。絶対怒られるって分かってるのにこうせずには居られない。
俺は牢屋の前に食べかけのリンゴを置くと、立ち上がった。

「ちょっと、トイレ行ってくる」














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