魔法の国の作り方

□第四章
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「まるでヒーローじゃないか!」
「ヒーロー?」

名前はため息をつくと、腕で目元を隠した。
そこから震える声で名前は続けた。

「俺は何にも守れちゃいない。島も奪われて、楓だって守れなかった。」
「それは…」
「昨日だってそうだ。川は濁って飲めなくなったし、リンゴの木が実験で枯らされた。楓が大事にしていた花壇だって踏み荒らされて見る影も無い。」

「俺は何にも守れちゃいないんだ。でも、仕方が無いんじゃないかって思ってきた」
「…どうして?」

小さく震える右手を握って俺は問いかけた。
はじめはからかってやろうと思って押しかけたけど、予想以上にやつれた顔を見て気が変わった。
声には疲れが残ってたし、目のくまは酷かった。きっと眠れて居ないんだろう。
小さくても一つの国を背負って戦ったんだ、これくらい許されても良いと思う。

「俺、人をいっぱい殺したんだ。皆、家族だって居ただろうし、そいつみたいに帰りを待つ奴も居たかもしれない。
それを、俺が全て奪ったんだ。俺は今その報いを受けて全てを奪われたんだ」

言葉の最後が震えて消えた。
戦争をするには、世界に立ち向かうには純粋すぎたんだろう。
きっと彼女はこうなってしまった責任を取ったのかもしれない。
全く解決ではないが、あの状況では正解だったろう。

「今日はもうお休み。明日はアップルパイを焼いてあげるからね」

素直にうなずく名前は誰が見ても子供だった。
そっと部屋を出るとリビングで案の定二人が喧嘩を始めた。
折角飲み直そうと新しいワインを持ってきたのに開けられそうにない。

「あそこであんな事言えば、ああなる事くらい分かるだろ!」
「イギリスだって、食事のとき国の話してたじゃないか。今日はそういうのはナシで集まったってのにさ」
「あれは確かに失敗したと思ったけど…」
「まぁまぁ、名前だってそんなに気にしてなかったんだから良いでしょ?」
「やっぱり初めに無理にでも勝って置けばよかった。」
「そうしてても、この結果は見えてたと思うな」
「そういえば、何でフランスは慰める気になったんだ?」

その質問に俺は少し考えた。
別に、思い入れがあったわけでもないし、興味も薄かった。
ただ、なんとなく自分の昔と比べてしまったのかもしれない。

「俺も年をとったのかもな。若いのが困ってるとちょっかい出したくなるんだよ」
「ちょっかい出しに行って連れて帰ってきたから凄くビックリしたんだぞ。
あのネックレスだってあげてるとは思わなかったし、本当なら返して欲しいくらいだ」
「なんだ、欲しいならまた作ってもらえば良いじゃないか」
「彼女、作り方忘れたから無理だって言うんだ」
「お前、完全に振り回されてるな」

楓ちゃんは本当に子供から大人になる途中の女性だ。
アメリカなんかに上手く扱えるはずが無い。
もちろん、俺は何もアドバイスしないけど。

「それに、ケーキを買って帰ったときも一口も食べないんだ」
「警戒されすぎなんじゃないか?彼女も女性なんだからマナーには気をつけろよ?」
「そうか、もしかして無理に散歩に誘った事まだ怒ってるのかもなぁ。よし、甘いものを買って帰ろう」
「だから、駄目なんだよ。アメリカ」
「ジュエリーの方が喜ぶのかい?」
「そういうことじゃないだろ、物をやることが大切にする事じゃないだろ」
「そうなのか!今までずっとプレゼントしてたよ!」

女の扱い方が分からないなんて、まだまだ青いな。
いや、この場合お金や名誉に左右されない女性と言う方が正しいだろう。
ワインをあけてグラスに注ぐと二人はやっと飲み直す気になったようで静かにグラスを傾けた。

「フランス、今気になったんだけどさ。君、しばらくっていつまで名前をここに置くつもりだい?」
「えー、ロシアがここに来るまでかな」
「なんでそんなに手をかけるんだよ。初め会ったときの帰りにボロクソに言ってたくせに」
「あの時は!お兄さんが活躍し始めた頃にやってきたからムカついたの!」
「そうだ、あの時鞭使ったんだろ?女性にそんなことするなんて考えられないぞ」
「うるせえ!敵国に攻撃しただけだろうが!」
「せめて二対一にならない様に見守ってたらこいつ勝手にテンション上がっちゃってんだぜ」
「その後もナメクジで虐めるし、君は何か恨みでもあるのかい?」
「何で俺が悪者みたいになってんだ!」

そんな風にイギリスを罵りながら夜は更けていき、夜中に酔っ払ったイギリスを連れてアメリカは帰っていった。
そこから少し仮眠を取って片付けと朝食の準備をしていると名前がおきて来た。
驚いて時計を見るとまだ朝の5時を少し過ぎた頃だった。

「おはよう」
「おはよう、随分早く起きたな。よく眠れたか?」
「うん。久しぶりにこんなに寝た」
「普段はどれくらい寝てるんだ?」
「夜は11時に寝て、4時に起きる。でも最近は寝れないからもうちょっと少ないかも」
「そんなに少ないのか?そりゃあ、背だって伸びないな」
「うるせぇ」

朝食を食べながら今日は何をしようかと聞くと、相変わらず冷たい反応が返ってきた。
予想通りだ。いきなり知らない所に来て何がしたいなんて言われても分からないだろう。
外に出るにはそのツノは邪魔だろう。

「名前のお父さんってどんな人?」
「あ?なんだ、いきなり」
「聞かせてよ。どんな人なのか」
「どんな人って…。……あれ?」

名前は少し頭を抱えた。目が泳いでいる。
俺たちにだんだん近づいているのかもしれないと思ったことはあった。
数ヶ月であっても独自の文化や産物を開発して貿易をして戦争を経験すれば近づくだろうとは思っていた。
ただ、少し速すぎる感もある。

「じゃあ、お母さんは?日本に居たときの住所は?母校の名前は?」
「一気に言うなよ!今、思い出してんだから」
「忘れてきてるんだろう?」
「忘れてない!家を出た事は覚えてる。それに、島を作ったことも。」
「その前は?楓ちゃん以外の友達の名前は?」
「それは…」

名前は黙り込んでしまった。
この事は後で日本に伝えておいた方がよさそうだ。
俺は不安そうにしている名前の眼を見て、なるべく優しい声で言った。

「大丈夫。ちょっと忙しかったから今だけ忘れてるんだよ」
「あの時、島を作ったのは俺だよな?アメリカの兵隊と戦ったのは俺だったんだよな?まるで自分じゃない気がしてきたんだ。」
「記憶なんてそんなものさ。俺の今までの記憶も俺のもののようで別の人のものかもしれない。そういうものだよ」
「何か、とても大事な事を忘れてる気がするんだ。俺が家を出るよりもっと前の…何か」
「今は放って置けば良い。それより今を楽しめば良いんだよ」

名前はまだ不安そうだった。
いつの間にかおきていた異変ほど恐ろしい事はないだろう。
俺は席をはずすと、今の事実を日本に伝える為に電話を取った。














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