魔法の国の作り方

□第五章
2ページ/7ページ










9時になって名前の部屋で横になった。
名前も疲れたのか、ベッドに潜るとすぐに寝ている。
俺はベッドのしたで布団に潜ると一人考え事をした。
こいつの父親や母親は寛大だった。受け止め切れなかったときのためにいた俺は必要なかったほどに。
それでも、俺はどんな人物なのか知りたくなった。
そっと名前のネックレスを首にかけて部屋を出てリビングへ聞き耳を立てた。
中から話し声が聞こえる。良かった、まだ起きている様だ。

「戸惑っているんでしょう?」
「それは、君も同じだろう。いや、これは通常の反応だ」
「だって、ニュースで見たとき以上に別人みたいだったんだもの」
「あぁ、きっと色んなことがあったんだろうな」

「もちろん、ありましたとも」
「ぎ、ギルベルトさん?」
「確か、名前と生活していたといってましたよね。名前はどんな事を?」
「俺は名前の訓練を見ていました。彼は一日も休まず、逃げ出しもしませんでした」
「元から根は真面目な子で…」
「どんなに成績が悪くても学校に行きたくないと言った事はないからな」
「それと、戦争が本格的に激しくなる前に一人、フランス兵を捕虜にしました。
名前はそいつの頼みを聞いて、戦闘機と共に海に沈んだその兵の恋人のネックレスを取りに夜の海へ潜りました」
「……」
「俺は教官として止めましたがね、聞く耳を持ちませんでしたよ」
「…他には?どんな事を?」

俺は出来るだけ細かく一緒に過ごした全てを話した。
二人はそれを驚いたり、喜んだりして聞いていた。
出会ったときから順に話して、俺はあいつとの最後の記憶を話した。

「最後まで戦う事に前向きでありながら殺す事に抵抗していました。最後にあいつが飛んだときには、すでに…」
「そうか、それを見て楓ちゃんがアメリカへ行ったんだな。本当に責任感の強い子だ」
「あのときに楓がアメリカへ行っていなければ名前はどうなっていたか分かりません」
「じゃあ楓ちゃんは今頃…」
「アメリカも名前が来る事を見越して出した条件でしたから、楓に手荒な真似をするとは思えません」
「でも、心配だな。名前は楓のことをいつも大事にしてるからな」

そういえばそうだな。
一体どういう関係なんだ?ずっと一緒に居るみたいだが…。
聞いてみようか、いや深入りしすぎか?

「名前と楓は別に幼馴染ってわけでもないけど、中学で一緒になってからずっと遊んでるわよね」
「そうだな。恋人とも違うし、兄弟でもないし、何だろうな。あの二人の距離は」
「もう夫婦って感じじゃない?ねぇ、そうよ」
「ふ、夫婦…」

あんな子供でも夫婦と言われるほどの奴が居るって言うのにヴェストといったら…
まぁ、俺も人のこと言えないが。
しかしあの雰囲気じゃ結婚なんて思想にないな。
初めにあいつの家に言ったときも微妙な距離だし。
おいこれ…、どっちかが動けば脈アリなんじゃねーか?
いやいやいや…。俺もジジイになってきたな。人の恋愛事情が気になるなんてよ。
ともかく突っついてみるのも面白そーだ。

「あ、そうだわ。ギルベルトさんは楓ちゃんのことも見ていたの?」
「はい。島での料理なんかの家事は楓がやっていましたから」
「おお、あの楓ちゃんが料理を!」
「嫁修行も積んでるみたいじゃない。名前もこれで将来は安心ね」
「こういうのは本人達に任せるべきだ。そう思うだろう、ギルベルトさん」
「えっ、はい。そう思います」

やばい。今めちゃくちゃやる気だったぜ…。
本人達もちょっとは意識してんだろ。
だって島に男女で数ヶ月一緒に居たんだぞ?
うわっ、俺様がビックリするほどに面白そうじゃねーか?
つつきてぇ…。恥ずかしがる名前をつつきまわしてみてぇ…!

「あいつも今はロシア領だが、また戦うんだろうな…」
「そうね。楓の為!とか言いそうなことじゃない」
「あの位置じゃあ、戦う為に国を作ったようなものだな。まるで…」
「あなた。お客さんも居るんだから長い話はよしてくださいな?」
「まぁ、お前も聞けよ。かのプロイセン王国も戦う為に作られた。けどな、俺は思うんだよ。今もあの国の魂はドイツ人に生きているとな」
「もう、また始まった…。ごめんなさいね、ちょっと付き合ってあげてください」
「あ、はい…」



「…結局プロイセンはポンパドール、エリザベータ、テレジアに包囲網を作られてしまったわけだ。そのときの危機的状況といったらなかったろう…」
「あ〜、あの時は本当に胃が痛みましたよ。なんたってあんなに上手く包囲されるとは…」
「おお!ギルベルト君、君も歴史に興味があるのかい?いや、名前からして君の母国の歴史になるのかな?」
「…え?はい!そうです。歴史の授業は熱心に受けたもので!」

あ、危ない。自分から名前に隠すように言ったくせに俺がしくじる所だったぜ…。
しかし、随分詳しいな。名前とは大違いだ。

「随分お詳しいんですね、ご職業は…」
「ああ、言ってなかったかな。私は大学で世界史を教えている」
「なるほど、そういうことでしたか。随分な知識量で驚いてしまいました。」
「いやいや、これをあいつが家を出る前に教えきってやればもっと道に迷わなくて済んだのかもしれないと言うのに。
…駄目だ。本当に身勝手だと分かっている。けど、もしギルベルトさんの都合が合えば、名前を助けてやってくれませんか。」
「…分かりました。少しでもあいつにアドバイスが出来る様に頑張ります。」

父親っていうのはこういう生き物なんだろうな。
不思議だ。今日始めてあったのに気の置けない奴と話している気分になる。
そうして時間が11時をまわった頃で断りを入れて部屋に戻った。
もちろん、ネックレスは名前の首に返しておいた。
本当に幸せな奴だ。あんなに素敵な二人に育てられたのか。


・・・


「不思議な人ね、ギルベルトさんって」
「そうだな。彼のような人間が居る限りプロイセンの魂はあり続けるんだろう」
「まぁ、初対面の人を気に入るなんで珍しいんじゃない?」
「べ、別に俺は初対面でも仲良く出来る人間だ」
「本当?若い頃なんて近づく人全員に警戒してハリネズミみたいだったくせに」
「ハリネズミとは何だ。君は今でこそ静かだが、随分やんちゃだったじゃないか」
「あら?今でもやんちゃして良いのかしら?」
「…止めてくれ」














次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ