魔法の国の作り方

□第七章
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どこで情報が漏れたのか知らないが、フランスから竜騎士団への物資の支給が取り沙汰され、ロシアの矛先は俺に移った。
はたけばいくらでも出てくる事実はあり、実際に見に覚えもある。
何も言い訳は出来ない。

「いや、言い訳なんてしないけどね」
「どうして?君は仲良くしてくれると思ってたんだけどなぁ」
「ほら、俺って惚れやすいから」

どうせこの襲撃で出る損害なんていつかのツケみたいなものだ。
痛くても受け入れるしかない。
ロシア軍が俺に銃を向けているのが見えた瞬間、俺の視界は真っ赤になった。
あたりは熱気に包まれて銃弾が跳ね返される音とそれをかき消すような轟音が聞こえた。
そして誰かが俺の手を掴んで熱気の中心へ引き込んだ。

「お前等、フランスを守れ!!」

その怒声に近い叫び声の後に答えるように遠くで何かの鳴き声がする。
俺の肩に爪を食い込ませて抱きこんでいる奴は声を枯らしながら空に向かって叫んでいた。
やっと状況が理解できた。俺は今、ドラゴンに乗って空中にいる。

「名前、助けに来てくれたのか…?」
「ちげーよ。借りた恩をきちんと返しに来ただけだ」

そういった名前はロシア軍を蹴散らしながら着地させた。
そのまま杖を取り出してロシアに向かって突きたてる。
名前の顔は見えないが、ロシアが険しい顔をしている。

「相手がフランスだからって油断したな。壊滅も時間の問題だぜ?」
「何で君はそうやって邪魔をしに来るのかな」
「邪魔なんてしらねーよ。恩を返しに来ただけだ」

ロシアはそのまま何も言わずに撤退して言った。
街の損害は最小限に収まり、国民への被害も少なかった。
お礼を言おうとした時に名前はその場にへたり込んだ。激しく咳をして顔色も悪い。

「おい、名前!どうしたんだ!?」
「最近の無理したしわ寄せだ。すぐに治る…」
「そんなわけ無いだろ、待ってろよ。救急車を呼ぶからな」

病院に運び込まれた名前は、すぐに入院した。
この症状が人のものか国のものか分からないが、重症だ。
その後、島に連絡するとかなり機嫌の悪いプロイセンが電話に出た。

「名前はそこにいるのか?」
「ああ、今は俺のところで入院してる」
「すぐにそっちに向かう。絶対に逃がすなよ」
「そう厳しく言わないでやってくれ。俺が助かったのは事実なんだ」
「そういう訳にもいかねぇだろ。無理して勝手に他所で倒れてんだ」
「プロイセン教官は怖いなぁ。そういうことならこっちで治療が終わるまで会わせない様にしようか?」
「あ?何でだよ」
「だって間違いなく名前の胃痛の元でしょ?」
「……」

何も返してこなかった事が予想外で、取り繕おうと考えているうちに通話は途切れた。
もしかしたら、地雷だったかもしれない。
まぁ、それもそうか。あいつも数ヶ月あいつの上司だったんだし…。
今度遊びに誘って適当に謝っとくか。

病室に様子を見に行くと、名前はベッドの上でお腹を抱えて丸くなっていた。
重度の胃潰瘍と風邪。
人としてみるならただただ不運。国としてみるなら不景気で働きすぎたって所か。
痛み止めを投与してからまだそんなに時間がたっていない。まだ効いていないのか冷や汗をかいて唸っている。

「プロイセンに連絡を入れて来た」
「なんで…」

プロイセンと名前を聞いただけで名前は歯を食いしばり、鳴きそうな声を上げた。
また地雷を踏んでしまったかもしれない。
俺はなだめるように背中をさすってやった。
ずっとこんなギリギリじゃあいつ息絶えてもおかしくないな。
たまには大きく勝負に出てみるか…。
俺はもう一度外に出て通話音量を下げて上司に電話をした。
結果から言えば音量を下げていて正解だった。
こんな情に流された話に声を荒げない上司はいない。

「魔法製品を買って、国内で魔法税をかけて売れば新しい税収になるんじゃないですか?」
「何のために裕福税を無くしたと思ってるんだ!」
「それはあんたが勝手に馬鹿馬鹿しくなったとか言い出したんでしょうが!」
「駄目だ、今あの国に関われば敵が増えすぎる」
「でも命がけで守ってくれたんですよ?」
「後で感謝の分を文書で送ればそれで…」
「良くないでしょう?経済的な支援をすべきです。それに…」

話は難航しそうな気配でとりあえず国会の議題にするという方針だけ伝えて切った。
あとは、どれだけ国民がついてきてくれることか…。
とにかくこいつの為にも一肌脱いでやろう。
こんなに非情になれない自分に嫌気が差す。
俺の栄光を思い出せ、あの時はあんなにも立派だったじゃないか…!



その晩、名前が病院から姿を消したと連絡があった。
少し驚いたが想定内だ。あいつが今の状況で島を空けるようなことをするはずが無い。
ただ、プロイセンに説教を受けるのかと考えると可哀想に思えてくる。
このまま見てみぬふりは出来ないだろう。
俺は本腰を入れて竜騎士団の救済を図った。














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