魔法の国の作り方

□第八章
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俺はその本を小さくして胸ポケットに納めると、俺は地下に誰もいないことを確認して地上階に向かった。
一階には既に確保されたリング付きの人で溢れかえっていた。
中には子供や女性もいるが、容赦なくロープで拘束されている。
俺はそれを横目で見ながら二階以上へ進んだ。
三階まで進むと激しい破壊音が聞こえた。
何かと思っていると、部屋に面した窓ガラスを見覚えのある男が突き破ってきた。
プロイセンだ。よく見ると細かな傷を沢山負っている。

「プロイセン!」
「あいつ、力だけはかなり強いぞ」

割れた窓の向こうには細身の男が立っていた。
プロイセンを投げ飛ばすってことは魔法を使っているんだろう。
確かに大き目のツノを持っている。
男は俺を見つけると俺に向き直って魔法をかけてきた。
体が若干軽くなるのを感じる。
物を浮かせる魔法なら自分の筋力の限界以上のものも持ち上げられるが術者の限界が魔法の限界でもある。
早くに諦めさせる為にも俺は帽子を脱ぎ去り、男に魔法をかけて拘束した。
それからリングを付けてロープはプロイセンに任せた。

「本当にこいつがさっき俺を投げ飛ばしたのか?抵抗もしてこないぜ」
「抵抗はしてるよ、一応」
「…マジか」

「よし、俺は先に進む。お前はこいつを一回に運んでから来い」
「え、プロイセンが相手してたんじゃないか」
「決着をつけたのはお前だろ?いいじゃねぇか」
「これ貸しだからな。ちゃんと今度返せよ」
「ヴェストのエロ本ならこっそり借りてきてやるよ」
「ドイツの趣味なんて俺に合うわけないだろ!」
「俺の趣味が何だって?」

プロイセンは背後からの声が聞こえると男を担いでせっせと走っていった。
取り残された俺はドイツに向き直って顔色を伺った。
いつもより若干目が細められている気がする。
話を聞いていたら当然だろう。俺はきっちりと敬礼をした。

「こちらは異常ありません。これより最上階の探索を始めます」
「待て待て。無かった事にするな。まさかと思うが兄貴とそういった物品の取引が今までにあったわけではないよな?」
「もちろん、今回が初めてです」
「では、俺の趣味が郁々というのはどういうことだ。答えろ」
「そ、それは…」

前にプロイセンから聞いたなんていえばプロイセンが何をするか分からない。
かといってここでプロイセンを庇った所で俺に何かメリットがあるわけでもない。
言っても言わなくても、俺に被害は巡ってくる。
こんなのって理不尽だ。何とかして抜け出さないと…。

「俺は隊長の趣味は以前気付いてしまいました」
「つまり何だ。俺の自室に無断で入ったということか?」
「いいえ。このツノがあるとそういう共有点に敏感になってしまうんです」
「共有点…?さっきは趣味が合わないとか言ってなかったか?」
「だって、叩かれたい人を叩く趣味と普段叩いてる人を叩きたい趣味は違うでしょう?」

僅かに微笑んで見せるとドイツは顔を背けて黙りこくってしまった。
今日もハッタリの調子は絶好調だ。俺はドイツが何か言葉を発する前に再度敬礼して階段を上った。

階段を登った先にはちょっとした通路と開け放たれたドアしかなかった。
そのドアの先には暗い部屋が続いていて、俺はその中へ徒歩を進める。
高い天井の部屋には大きな窓があるようだが、窓は全てカーテンがしっかりと閉められている。
部屋に入ると、奥に誰かが座っているのに気付いた。
静かでありながら力強い魔力を感じる。

「同胞か。丁度良かった、片づけを手伝ってくれ」
「悪いな。俺はあんたの仲間じゃないぜ」
「…今朝長老の言っていた反撃者か?」
「お前がここの親玉だな。ここ最近の連続犯罪について何か知らないか」
「犯罪とは随分浅い言葉だな。俺たちを拒んだ人間への報復だというのに」
「拒んだ?」
「この見てくれだ。お前にも経験はあるんじゃないか?」

俺はいつかの人々の嫌悪と畏怖の目を思い出した。
いつのことかまでは思い出せないが、俺にも確かにそういう目を向けられた過去がある。
俺は暗闇の向こうにいる男を見つめた。

「近くに来い、弟よ。お前に伝えなければならない歴史がある」
「弟?俺は一人っ子だ」
「若いな。まだ人と国の違いが分からないのか?いいから来い」

最後の一言が言い終わるとほぼ同時に俺は強い力で体を引き寄せられた。
俺は男が魔法で作った椅子に座らせられ、背もたれの金具に体を拘束される。
いつか体験した息苦しさだ。まさかと思い試してみたが魔法は使えなかった。
近くで見て分かったがこの男にも頭の両端から下へ弧を描くようにツノが生えていた。
金属のような反射をするそれは俺のとは違いどこまでも黒かった。
つまり、魔法には俺より長けているという事か…。
そして、この椅子からの眺めで初めて部屋の中に何人か倒れているのに気付いた。
さっきの片付けって言うのはこの事だったのか。

「俺はこう見えてそこで倒れているイギリスの生まれでな。昔は森や山の中に棲んでいた。そこで小さな集落を作って暮らしていたんだ」
「その頃から魔法は使えたのか?」
「魔法と呼んでいるのか。まぁ、違いは無いな。そうだ。昔から使っていた。
それから人間との接触があった。人間は俺たちを受け入れず迫害し追い立て、歴史の闇に葬った」
「まさか、その復讐を今になって?」
「今までが狂っていたのだ。見世物として好奇な目に晒され、同胞が殺されてもなお反撃を拒んだ。
いや、あの予言書が現れてからずっとその瞬間を夢見て耐えてきた。しかし、お前の登場は遅すぎた」

男は俺の肩に手を回し、俺の口を封じた。唇同士がぴったりと引っ付いて開かない。
さらに男は空を指先で一閃に斬るように反対の手をゆっくりと動かした。
すると壁のろうそくに火がつき、部屋を照らした。
ぼんやりとした光に浮かび上がった部屋には見覚えのある奴が倒れていた。
イギリスにアメリカ、フランスだ。外傷は無いようだ。
魔法で眠らされているだけならいいけど。

「そんなに心配するな。今から起きて貰う」

男は指一つで三人を宙に浮かせ、その場に椅子を作って座らせた。
それから指を鳴らすと三人は眠りから目覚めるように起きた。
しかし、三人は手とクビしか動かせないようだった。
イギリスとアメリカが妙に慌てていないのは楓が原因だろうか。

「そうだな。まず、イギリス。発言を許可しよう」
「…お前は何が目的だ。何だってこんなことを…!」
「嘆かわしいものだな。そう思うだろう?俺の唯一の弟よ」

男は回した手で俺の頭を撫でた。頭を傾けて嫌がったが俺のツノを掴んで引き寄せた。
俺は男を睨み付けるが、男は俺の方など見てはいなかった。
男は明らかな恨みの目でイギリスを見つめている。

「虐げたほうは記憶にも無い様だ。お前のお陰でどれほど同胞の血が流れた事か!」
「…記憶にも無いほど昔の事を今更言われてもな」
「お前は俺たちを悪魔として迫害を続けた。今日でこそお前に住処を荒らされている」
「お前の言いたいことは分かる。だけどな俺の記憶に無いってことは今のイギリス国民の記憶にも…」
「もういい、黙れ!お前は覚えていなくても俺たちは覚えている!」

男は俺の首を掴み、椅子ごとイギリスのそばに投げ出された。
派手な音を立てて俺は床とぶつかった。
そして椅子は消え、俺の口も魔法も解放された。

「弟よ、お前の力でその男に永遠の苦しみを。同胞達の恨みを…!」
「……」
「どうした?お前と敵対していた男だぞ?」
「……するな」
「…なんと言った?」
「俺に指図するな!さっきから聞いてれば、今までの歴史とか同胞の恨みとか…。俺には関係の無い事だろうが!
何だって何百年も生きてるやつは話を聞こうともしないんだ。俺は!楓と!島で暮らしたいだけなんだってば!
お前とイギリスの間の事とか、俺関係ねぇじゃん!?俺を復讐の道具として使ってて弟とかふざけるな!」
「お前が俺に歯向かって勝てると思っているのか?」
「なめるなよ、俺はお前と違って何度だって立ち向かってきた!圧倒的に場数ってのが違うんだ!」

俺は三人にかかっている魔法を俺の魔法で中断させた。
丁度そのとき後を追ってプロイセンとドイツが入ってきた。
二人は状況を読む前に三人の救出に向かった。

「名前!後で絶対に説明してもらうからな!」
「避難が終わったら応援を頼む!」
「了解!」

三人に肩を貸して外に出たのを確認すると、俺は再び男に向き直った。
すると男は初めて腰を上げ、背後に掲げられていた長い棒を手にした。
その棒の片方には大きめの宝石が埋め込まれている。
俺はそれを見て笛を取り出した。

「これはロッドといってな。力をこれに充填するものだ」
「んなでっかい物持ち歩いてるなんて大変だな」
「なんだ、その粗末な笛は。そんなもので魔石の力に敵うものか」
「これ自体じゃあ勝てないかもな」

俺はそれを強く吹き鳴らした。
そして部屋の左側からバルはガラスを突き破り部屋に入ってきた。
前足の爪を床に食い込ませながら迫っていく迫力はなかなかの物だ。

「こんな生物、予言書には無かったぞ!」
「だから、俺がロシアに負けた時点であの予言書は外れてるんだよ」
「まさか、そんなはずは…!」
「どれだけテレビ見ないんだよ。俺、毎日ニュースに出てるらしいぜ?」

俺が手で合図すると、バルは男が持っているロッドを魔法で取り上げて俺に渡した。
恐らく杖と同じ様なものだろう。術者の手元に無ければ魔法の強化も出来ないはずだ。
ロッドは2mほどあり、強力な魔力を放っていた。
俺はそれを使い、男を魔法で拘束してロッドの先を男の頭につけた。

「何をするつもりだ…?」
「お前に一つ聞く。もしここで俺が仲間になったらお前はどうする?」
「同胞に迫害を続けたヨーロッパ全土に復讐を成し遂げるに決まっている」
「過去に縛られるのは嘆かわしいな。悪く思え、これも全て俺のためだ」

俺は男が持っていた魔力を全て魔石に封じ込めた。
するとツノは消え、男は眠りにつくように倒れた。
バルを撫でてまた呼ぶと伝えて帰すと、丁度プロイセンが入ってきた。
倒れた男、割れて内側に散乱した窓ガラスで大体を察したらしい。
男を担ぎ、一階に俺を連れて行った。
一階には大勢のツノのある人達が拘束されていた。
ツノがなくなった男を見て悲鳴を上げる者もいた。

「ツノが不要だと思うものは名乗れ。俺がこのロッドで取ってやる。人間と同じ生活をするんだ」














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