story

□たとえばこんな冬の朝
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楽しみに取っておいた映画はデッキの中にセット済み。
ベッドから持ってきたタオルケットは、軽く畳んでソファーの上。
携帯の電源はオフにして、綺麗に拭いたローテーブルの上に伏せる。


「うん、まずはオッケー」

さっき彼女に指摘された寝癖は直したけど、最低限の身なりだけ整えて、後は特に何もしていない。

もし突然誰かが来ても──まあ、そんなことはまず無いんだけど……間違いなく居留守を使うと思う──そんな格好で、「うーん」と、天井に向かって伸びをする。

腕を伸ばしたまま体を傾けて部屋の反対方向を見ると、同じくすっかりくつろいだ様子の凪紗ちゃんが、パタパタと部屋中を動き回っている。


「こーら、凪紗ちゃんダメだよー、あんまり働いたら」
 「ちょっと待って亮太くん、すぐに終わらせるから」

そう答えて凪紗ちゃんがキッチンに入っていってから聞こえて来た音は、慌てたせいか少し雑になった。

カチャカチャではなく、ガチャガチャ。何かを出した音は、コン!というより、ゴン…と、いつもより大きく鳴り響く。

見えない姿を音だけで想像していたら、タイミングよく「……あっ」なんて焦った声が微かに聞こえてきたりして──
それを一人で笑ってたら、またパタパタと足音がして、ぴょこんと顔を出した凪紗ちゃんが、「もう少し、ね」と言って、またキッチンに隠れた。


「気合い入りすぎ」
もう一度こっそり笑って、彼女の気配に耳を澄ませた。


“家から一歩も出ないで過ごす”

そう決めて、

“何もしないために準備万端整える”

そんな変な目標を作ったのは、もう一ヶ月は前。
細かい変更を何度も繰り返しながら組み立てられていたお互いのスケジュールが、まるで電車の時刻表のように綿密に計算された状態で完成したのを、お互い苦笑いしながら確認した日に決めた。

まさに “死守した” と言える二人揃ってのオフは、俺にとってはクリスマスなんかよりずっと楽しみだった。


「でも、やっぱり亮太くんにちゃんとお祝いが言いたかったな」

クリスマスといえば俺の誕生日でもあるので、彼女にとってはそんな単純に割り切れることでもないようで、そんな風に呟いて、少しだけ困った顔をした。


だからという訳でもないだろうけど、そんな忙しい中、冷凍保存が出来て手で摘まめるおかずを作り置きして、
ドリップしたコーヒーを煮詰まらないように保温できるポットや、冷めないマグまで用意していた凪紗ちゃんは、今はそれをここに並べるべく、張り切っている。

手伝うと言ってもきっと断られるに決まってるから、今日は大人しく待つことにする──けど。


“何もしない” って案外大変なんだなと、手持ち無沙汰で携帯に手を伸ばしかけ、慌てて引っ込めた。

その時ちょうど、トポトポとコーヒーを注ぐ音と豆のいい香りが広がったので、立ち上がって彼女の居るキッチンに向かうことにした。
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