story
□チクタク、テクテク
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椅子の背もたれに寄り掛かって伸びをすると、日除けのテントの端から覗いた空に、小さい雲が幾つか浮かんでるのが見えた。
空の上は結構風が強いみたいで、雲の形はどんどん横長に延びてって、それから薄く拡がって流れて、溶けるみたいに青空に消える。
「──眩し……っ」
仰向けのまま片腕で目を隠したら、さっきまであまり聞こえてなかった、スタッフの声や作業する音が大きくなった。
それで風向きが変わったんだなって分かって、色んな音がする方へ意識を向ける。
そろそろ休憩時間も終わるかな。
今、何分だろう。
でも風が気持ちよくて、なかなか時間を確かめる気になれない。
台本に書くなら、“さわさわ” とか、“そよそよ” とか、そんな感じの風かなーなんて、どっちでもいいことまで考える。
このままじゃ寝ちゃいそうだ。
「皆の所に行くかなー」
誰もいないのにわざわざ声に出した。
「んー!」っと、思いっきり伸びもする。
空には、さっき雲が消えた辺りに、もう新しい雲が浮かんでて、数も増えてた。
そこから差す光はさっきよりずっと眩しくてチカチカして……目をぐっと細めてまた腕で目を隠そうとしたとき──ふっ…と目の前に影がかかった。
「あれ……?」
「そんなにのけ反ったら、転んじゃうよ?それと……かければいいのに」
サングラスを差し出したのは凪紗ちゃん。
空とオレの間にぴょこんと顔を出し、クスクス笑ってる。
彼女はもう今日の撮影が終わったから私服に着替えてて……スタッフに挨拶してきたところ、かな。
「サングラスそこに置いてあるの、忘れてたの?」
「……というか、考えてなかった」
「ふふっ、変なの」
受け取ったサングラスをシャツの首に引っ掻けて、ブラブラさせてた椅子の前足を元に戻して座り直した。
「どうぞ。──ちょっと座らない?」
「ありがとう、じゃあ……お邪魔します」
少し距離を開けて置いた椅子に、凪紗ちゃんは浅く腰かける。
「空の上は、風が強そうだね」
ゆっくり空を見てオレと同じことを言った凪紗ちゃんの髪が風になびく気配を、横顔で感じた。