:短編:
□彼女は天人
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「……んなことを何で聞いてんのか教えてくれたら話してやるよ」
今度は桂が驚く番だった。
「銀時……」
「ヅラが言わないんなら言わねぇからな」
「ヅラじゃない桂だ。全く、貴様は……」
張り詰めていた空気が、銀時によって少し和らぐ。桂はいつの間にか緊張していたのか、拳を強く握り締めていたことに気付き、拳を解いた。
ふぅ、と静かに息を吐き、桂は覚悟したように言葉を紡ぐ。
「……銀時の家にいる、リーダーのことだ」
「リーダーぁ?……ああ、神楽ね」
「あの娘は夜兎族だ。要するに、天人だろう。……松陽先生は、天人がこの地球に来た影響に巻き込まれ、殺された。天人がいなければ、松陽先生は今頃だって……」
「…………」
「全ての天人が悪い訳では無い。心優しい天人もいる。子供の天人もいる。俺はそれが解った。だから元凶である幕府や、天導衆等に狙いを定めたのだ。……だがな、銀時。それは俺の場合なのだ」
銀時を見つめる桂の瞳が揺らぐ。銀時はそんな桂の表情を見て目を細めたが、口を出す真似はしなかった。
「……銀時は……。誰よりも松陽先生が大切だった筈だ。大好きだった筈だ。俺よりも、高杉よりも。なら、松陽先生が殺されたこの世界で、誰よりも天人を嫌いで……いや、憎んでいるのは銀時だ。俺のように割り切れているのかが、解らないのだ……」
少しずつ、顔が哀しげに歪んでいく。
「高杉がああだ。銀時が……同じ家で天人の子供と共に過ごしているなど……」
──もしかしたら、銀時が苦しんでいるだけではないか。
少しずつ、声が苦しげになっていく。
やがてその声は最後まで紡げなくなり、桂の中に呑まれた。