:短編:

□嫌い者同士
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 長時間に及んだ手術の末、土方の一命は取り止めた。

 胸を刺された土方だったが、心臓すれすれだった為に生き延びることが出来たのだと、翌朝に行われた会議で近藤が述べていた。

 しかし今だ危険な状態にあるのは変わりなく、意識は戻らないままだという。

 いつも近藤の隣に並んで座っている場所には、1枚の座布団があるだけ。

 ただそれだけなのに、屯所の空気は重苦しさを増していた。

「……とりあえず、トシの意識が戻るまで副長の仕事は皆でカバーしよう。……トシが帰ってきたら驚かせてやろう!俺がいなくてもやれば出来るじゃねぇか、ってな!」

「局長……」

 殊更明るい声を出し、笑う近藤。

 無理して笑っているのは不器用な彼を見たら一目瞭然だったが、彼なりに皆を励ましているのだと、隊員達は不思議と笑みが零れていく。

「な、総悟!お前も頑張……」

「すんませェ。ちょっと見回りいってきやす」

「へ?……そ、総悟?」

 笑顔を沖田に向けた近藤だったが、遮るように沖田はふらりと立ち上がる。

 顔を俯かせていた為に表情は解らず、近藤や山崎が止めるのも無視して部屋を出ていく。

 沖田が襖を閉めた時、部屋からの囁き声が彼の耳に届いた。

「沖田隊長、どうしたんだ?」

「何だかんだ、1番辛いのは隊長なんじゃね?副長、隊長を庇って重傷を負った訳だし」

「でもさ、隊長っていつも副長の座狙ってたんだろ?訳わかんねーぞ、それ」

「まぁ確かにな。結局の所、副長のことが大切なのかそうじゃねーのか……」

 そこで、近藤に「煩いぞ!」と注意され、2人の隊員はビクリと返事をして黙り込んだ。

 ──……解んねぇよ。俺だって。

 心の中で吐き捨てると、屯所から1人出ていった。
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