妖ノ唄

□一匹目
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「──ふたつ池の幽霊、ねえ……」

他の木々よりも一段高い梢に佇んで、黒ずくめの服装をした中性的な少女は空を眺めながら呟く。
すらりと伸びた、生白い色をした裸足の脚に映える黒い高下駄と、赤い鼻緒は少女の立っている場所に対しては妙に不釣り合いだった。
──ふたつ池には、お化けが出るらしい。
と、上院高生の間ではもっぱらの噂である。そしてそれは、人ならざる者の間でも。
──黄昏に染まる空に、夕闇が段々その色を濃くしていく頃。
池のほとりに佇む女。
女がどんな顔かはわからないが、水色のワンピースだけが、やけに悲しげに、風もないのに揺らめいている──

「──この手の話は曖昧なのが多いんだけど……何か、引っ掛るんだよね」

何故、あんなにも証言が多いのだろうか。
何故、奇妙な程に証言が一致するのだろうか。

噂を流して──というのは、無い話ではない。
しかし、それにしてはあまりにも量が多過ぎた。
独り呟きながら、少女は思考を整理する。

「……“あいつら”にも言われたし、調べてみようか」

そう言った一瞬後、梢の上から落下するように下へ降りて、少女──真弥は何事も無かったように夕闇へと掻き消えるように歩きだした。

     *

「──あれ」

途中通りかかった場所で、真弥は見覚えのある姿に足を止めて陰へと隠れる。
ブロック塀の上にふんぞり返って、高校生らしき二人を見おろしている三人は、真弥にとって見覚えがあり過ぎる人達だった。

「……まぁ、今回は放っておこう」

面倒だし、と本心を隠すことなくそう呟いて、真弥は更に隠れて傍観の体勢を取る。
高校生らしき彼らが歩きだそうとしたその時、彼らの足元にバラバラバラッと火の付いた何か小さな物が雨霰と降り注いだ。それに嫌な予感を覚えて、耳を塞いだ、その一瞬後。連続した破裂音が響いた。

「……煩い」

立ち込める煙と火薬の匂いに思わず咳き込む。
こちらもどうにかするべきだった、と思いながら。

「2B弾か……」

あいつら、と思いつつ、一つこっそりと溜め息を吐いて、真弥はそっとその場から離れた。
巻き込まれては敵わない、とばかりに。
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