妖ノ唄

□ 二匹目
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早朝の地獄堂。
その真弥に宛がわれた2階の一室に、携帯電話のコールが鳴り響いた。
オルゴールのようなメロディコールに、布団から手を出して通話のボタンを押す。
着信相手の「祖父」という画面を見て溜め息を吐きながら。


「───もしもし、じいちゃん?……ん、私?何ともないよ?……え、御守り?うん、持ってるけど……心配性だな、じいちゃんは。え?私の婚約者?断っておいて。流石にそれは自分で選ぶよ。……あの人?うん、まぁね。じゃあ、」


真弥は自分の祖父からの定期連絡を切り、こう呟いた。
また嵐が来そうだな、と。


 *


「───ちゃん、お姉ちゃん!!」

「……リト?あれ、リトが何でここに?」


京都の氷咲家にいるはずの李斗を見る。
自分とは似ても似つかない、柔らかく棚引く黄金色の髪が煌めいていた。


「仕事のついでだよ。お姉ちゃん体調崩したって聞いてさ。これ、じいちゃんから」

「新しい呪具か…ありがとう、リト」

「うん!」


氷咲李斗。
私の“弟”であり、少女のような外見だが、紛れもなく“男”だ。


「後さ…水難と女難に気をつけて。お姉ちゃんを占ったらさ、日曜日にそうなるらしいから」


自分の物と似た色合いの蒼い目が真剣にこちらを見つめている。
李斗の言った言葉に目を伏せて考え込む。


「水難と女難……」


李斗は仮にも、私と同じ(この表現は嫌いなのだが)名家出身の陰陽師で、自分の仕事に誇りを持っているのだから、嘘なんて無いのは知っていた。


「あ、もう行かなきゃ!またね、お姉ちゃん!!」


パタパタと、慌ただしく駆けていく弟に苦笑して、自身も寝間着から私服に着替える仕度を始めた。


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