妖ノ唄

□五匹目・第一章
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今日、地獄堂では新進気鋭の日本画家だったとある女性の話をしていた。


私は適当に聞き流していると、ガラスも割れん、壁も裂けんばかりのリョーチンの絶叫が聞こえた。



真弥は溜め息をついて、物憂げに呟いた。



『──今も昔も、げに恐ろしきは人の情なり……か』



「雨月物語?」



ふと呟いた、その一節に椎名が反応した。



『正解。いやー…吉備津の釜みたいな話だねぇ』



椎名の問いに、古典を引き合いに出してそう例える。



「そしたら小夜子が磯良で男が正太郎?」



『そうそう。ま、この場合どっちもどっちだけどね』



原作では正太郎に非があると思うけど───いや、こっちも男に責任があるんじゃ?



等と怯えるリョーチンを無視して二人は語らっていた。



『それにしても、生き霊…ねぇ』



嫌いなんだよな…生き霊。



ぽつりと、真弥が零した。



「どうして?」



『───この仕事だと、人の解りたくもない負の感情が解ってしまうからかな』



受け止めて、受け流す。
それができなければ──喰われてしまう。
私は、そんな環境で育ったから。



「──それでどうなったんだ?小夜子は?男は?」



「小夜子の生き霊は、それからもたびたび現れてな。男は、あの絵だと思い当たったのよ。その絵をしかるべき場所へと納めたあとは、小夜子の生き霊も出なくなった。男はまた引っ越しして結婚し、今は仕事で海外におるよ」



『……何だかなー』



男にはハッピーエンド(かは不明だが)、女にはバットエンド。
泥々の色話の結末なんて大体がそんなものだろうが、中々釈然としない。



「しかるべき場所って、なんだ?」



………絶対勘違いしてるな、これは。



「寺か神社だろ」



『だろうね。神社の方が可能性は高いけど。神社には結界が張られている事が多いから……この辺の神社なら…不入神社だろうか』



「ひひひ、いい勘だな。裕介、マヤ」



「へぇーっ、あそこに生首の絵があんのかぁ。いっぺん見に行こうぜ」



「やだようー。俺は行かないからなぁー」



『無理無理無理!!私は絶対行かないからな!』



一応、弱々しくも拒絶してみるリョーチンと、本気の拒絶をする私。
無表情の椎名。
じいちゃんとガラコは、面白そうに目を細めていた。


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