イケ奥夢小説

□記憶喪失イベント『心に刻まれた恋人(ひと)』鷹司編
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翌朝_…朝餉を済ませた私は大奥へ向かう廊下を一人急いでいた。

(鷹司…、部屋にいるかな)

息が上がる。
どくどくと自分の心音が耳につくのは、小走りで駆けてきたせいだけではない。

(早く会って確かめたい。『いつもの』鷹司に)

「あ!おゆん様っ」

角を曲がればすぐ鷹司の部屋、というところで火影と出くわした。

「…鷹司様に、用?」

「うん」

こくりと頷く私に、火影は僅かに表情を曇らせる。

「鷹司様なら、さっき城下へ行くって出て行ったよ」

「……そっか...」

「おゆん様…もしかして、鷹司様となにかあった?」


「え?なんで?」

(どうしてそんなことを?)

「ねぇ火影。鷹司の様子、いつもと違ったりしてた?」

不安が膨れ上がっていく。
あからさまに肩を落とす私を気遣いながらも、火影が言葉を続けた。

「うん…違うっていうか…いつも城下へはお二人で行かれてるでしょ?だから「今日はおゆん様誘わないんですか」って聞いたら、「なんでだよ?」って素っ気ない感じだったから、喧嘩でもしちゃったのかな…って思ったんだけど……おゆん様、大丈夫?」

「あ、うん…大丈夫だよ。喧嘩とかじゃないから。ありがとう、火影」

(火影にまで心配かけられないよ…)

気遣ってくれる火影に私は笑顔を作って踵を返した。

………………

「はぁ…」

鷹司に会えない一日はとても長く、私は寝所で一人、今日何度目かわからないため息を零す。
火影に指摘されたとおり、城下へのお忍びにはいつも誘ってもらえたし、公務で一緒に行けない時はお菓子や簪のお土産を持ってきてくれたというのに。
状況から察する鷹司の意識の中で、私の存在はとても儚いように思えた。
固く閉ざされた襖を暫らく恨めしく見つめた後、

(明日こそ、鷹司に会いにいこう…)

願いを込めるように、固く目を瞑った。
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