イケ奥夢小説
□記憶喪失イベント『心に刻まれた恋人(ひと)』鷹司編
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翌日は朝から立て続く公務の間中、やはり鷹司のことが頭から離れず、何度も春日局様に助けられ挙句「本日上様はご体調が優れないようなので…」と退席を促された。
立ち去り際「仕置を覚悟しておけ」という冷えきった声が耳を掠めたが、それさえも上の空で私は会合の間を後にした。
__御門「愛なんて、偶然と勘違いの積み重ねだし、あんなにあやふやで儚い感情を、信じるアンタはどうかしてるってこと」__
御門の言葉を思い出せば、固めたはずの決意はすぐに萎んでしまいそうになる。
(鷹司が私とのことを忘れてしまうなんて…そんなこと……でももし本当だったら……)
直ぐに会って確かめたい気持ちと不安が入り混じり、私は廊下で一人立ち竦み、小さく息を零した。
すると…
「溜息なんてついてどうした?公務はもう終わったのか?」
庭から届いた想い人の声にはっと息を呑む。
「鷹司…」
見ると庭に立つ鷹司の周りをおはぎが元気良く駆け回っていた。
「公務中ちょっとぼんやりしちゃって…春日局様に迷惑かけちゃったんだ。鷹司は、おはぎの散歩?」
「あぁ…こいつ、もっと構えってうるさくてな」
「......春日局様のことなんて気にすんな。家光の迷惑なんてお前の比じゃなかったぞ」
明るく慰めてくれる鷹司はいつもと変わりなく優しくて、私は少しだけ安堵する。
「なんか困ったことあったら、いつでも俺に言えよな。出来ることなら力になる」
「…………ありがとう」
力なく誤魔化すように笑ってみたものの、気付かないわけにはいかない。
優しい言葉に柔らかい笑み…なのに、そこにいつもの甘い雰囲気が無いことに。
「あ、あの、鷹司っ」
じゃあな、と立ち去りかけた鷹司を急いで呼び止める。
(こんなこと聞いたら、変に思われちゃうかもしれないけど...)
「私のこと…どう思ってる?」
好きだって…大切だって、言って欲しい。
そうしてその後で「突然こんなこと言わせんな」って照れて__
鷹司を真っ直ぐ見据えて、言葉に出来ない想いを呑み込む。
けれど
「は?あぁ…影武者としてよく頑張っててすげぇな〜って…家光と似てるようで全然違うな…って…なんだよ突然…やっぱなんかあったのか?」
(やっぱり御門の言ってたとおり…私と恋人関係だったことは忘れちゃってるんだね)
不安は確信へと変わり、心に暗い影を落とした。
「ごめんね、変なこと聞いて...。なんでもないよ」
私の気持ちを計りかね首を傾げる鷹司に慌てて背を向け、その場を立ち去る。
曇る気持ちが表情に出てしまうその前に。
..................
「クゥ〜〜〜ン」
おゆんの頼りない背中が廊下を曲がり切り消えてもなお、おはぎが名残惜しむような声で鳴いている。
「……あいつ、なんで突然あんなこと…、別に恋仲なわけじゃないんだから、答えようがねぇよな、おはぎ」
何の気なしに零した自分の言葉が、なぜか妙に引っ掛かる。
「おゆんと俺が……恋仲……?」
「ワンッ」
独り言に、すかさずおはぎが反応した。
「……なわけないだろ、ほらもう行くぞ」
すっきりしない違和感が拭えないまま、鷹司はおはぎを抱き上げてその場を後にした。