恋敵と私と彼

□油断出来ない
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私達の住むカルメリア村は、アーリア大陸という地のアルメリア国という所に属している数多くある村の一つで、南には砂漠、北には山間、西は国の中心王都がある。

カルメリア村は国の東に位置しており農業が盛んだ。東の気候は農作物を育てるのにぴったりなようで貧困に困ることは無い。

そんな村の村長さんの家は村の中心ど真ん中にある。


「お待たせー!村長」

手を振るスノウと、その後には先程彼女に『オカマ』と言われ女としてのプライドが若干傷付いたのか、不機嫌なフィルレイトが駆けていく。駆けていく先には村長と、二人を置いて先にこの場へ向かっていたディオンがいる。


「おっせーよ二人とも。まだ喧嘩してたのか?」
「このじゃじゃ馬娘が煩いのよ」


先程のスノウとのやり取りを思いだしたフィルレイトは、不機嫌オーラを撒き散らし彼女を一蹴する。


「なんですってぇ!?私だって『ポコッ』っ痛‼」
「いい加減にせんかまったく」


スノウの目の前にいた村長の拳がスノウに飛ぶ。


「ふっ。いい気味『ボコッ』っ痛‼」
「お前もじゃ」


頭を抱え大人しくなる二人に、流石村長というべきか。この村の子どもたちをまるで自分の子どものように普段から構っている村長。スノウとフィーラの喧嘩を止めるのも年が経つに連れ慣れてきたもので、今年で60歳。
まだまだ元気でいてほしいものである。


「それはそうと昨日の今日で話が全くなんだけど。あたし達が今日から王都まで旅にでるのはこれ決定なの?」


突然過ぎて何がなんだかわかんないんだけど?と、大人しくなったフィーラが本題を問う。

そう昨日の今日なのだ。本来今の時間私達は村の皆が通う学校に行くはずだったのだが、昨日急に旅の出立を告げられ今ここにいる。


「あとなんで俺達が行かなきゃなんないのか、そこもちゃんと聞かせくれ」


スノウもずっと気になっていた。何度も言うが本当に急で、村には伝令係という一種の文使いのような役割を持った人達がいるのだが、その伝令係の人が昨日家に訪ねてきて、大まかに村長からの王都への旅についての知らせを伝えてくれたのだ。

王都はこの村から歩いて1、2ヶ月はかかる。ちょっと旅行に…なんてのは遠すぎだし。お使い…とか?でも王都までわざわざ?

この旅の肝心な目的は伝えられていなかったので、一晩中悶々として眠れなかった。
だから朝遅くなったわけなのだが。


「ああ決定事項じゃ。まず、目的は後に話すとして何故お前たちなのかという説明だが、まずディオン。この村でお前は一番の魔法剣の使い手。王都までの道のりは魔物が出現する所が数多くある。何、冒険気分で行ってみてこい。お前だったらそう簡単にはくたばらないだろうてな」


そう。この世界には魔の物、魔物が存在する。魔物だけではない。妖精も存在している。厄介なのは魔物だ。魔物は人間を喰らう生き物。姿形はそりゃもう大小彩り様々で種類は計りしれなくて、何千年も前から存在しているとされる。

人間はそれに対抗するために約800年前に魔法というものを生み出した。生み出したといっても何も無い無機質な字や物から作ったわけではない。もともと魔力は人間の体内にもあったのだが、いかんせん生かし方がわからない。というかそもそも魔力が体内に宿っているなんて800年前まで誰も知らなかった。

喰われていく人間達を哀れに思った妖精が絶滅寸前の人間に力を貸したことが人間が魔法を使う時代の始まりとなる。
それが約800年前の出来事。

ある者は剣に魔法を宿し

ある者は自身の手足に魔法を宿し

ある者は魔力を言の葉に乗せて

ある者は妖精を従い魔法を使い

ある者は体内の魔力を陣に宿す

人それぞれによって魔法の使用方法は違い、簡単に言えば自分に一番合った魔法を使うのだ。ディオンの場合は魔法剣で魔法剣は普通の剣とは違い魔力をこめられる鉄が練り込まれている。小さい頃から王都直属騎士に憧れをもっていたディオンは剣を極めることに夢中だったので必然的に魔法を剣に宿し使用している。

しかも16才にして学校一、村一の剣の使い手だ。


「じゃあ、あたしもそんなような理由なのかしら?」


フィーラが小首を傾げる。


「お前は粗方魔法全般使いこなせるしのぅ。体術もお手のものだろう。あらゆる事柄に対してオールマイティに動けるのはこの村でお前くらいだ。それに王都にも行った経験があるだろう」
「えー。面倒くさいわねぇ」


そうなのだ。
悔しいが、本っ当に悔しいがフィーラの魔法については私も認めざるおえない。私が1ヶ月かかっても出来ない魔法をこのオカマは1日、いや半日でマスターしてしまう。
本当に得体のしれない奴だ。


「じゃあ私は?」


そう、私はなんなのだろうか?
特別魔法が得意なわけではないし寧ろ苦手で体術が使えるわけでもないし、唯一できるとしたら韻唱破棄の回復の魔法光魔法だろうか。それだけは誰に教えられずとも小さい頃からできていた。そんなことぐらいなのだ。

私が首を傾げていると閉じていた村長の口が開く。


「この旅の一番の目的はスノウ、お前を王都のローネ老の所まで行かせることじゃ」
「え?」


…ん?私を王都まで?なんで?他の二人も疑問に思ったのか「ローネ老?」「スノウを王都に届けてどうすんだ?」と不思議な顔をするフィーラとディオン。


「王都にいるローネ老からのぅ手紙が届いたんじゃ」
「手紙?」


なんで私の所じゃなくて村長の所?村長が懐から白い封筒を取り出し手紙の内容を読み上げていく。


「『ジェル村長へ

急なお手紙申し訳ありません。
スノウは元気にしているでしょうか?

こんなことを聞いておきながら恐縮ですが
スノウを3の月が回るまでに王都の私の
所まで連れて来てくださいませんか。
理由は告げられませんがどうか無事に送り
届けて頂けるようお願いします。

ローネ・マーシェ』」


読み上げた村長も理由はさっぱりらしく終始眉が下がっている。


「とりあえず今日から3ヶ月経つ前に王都へ来いってこと?」
「今の時点ではそれしかわからん」
「ローネ老の居場所はわかってるの?」
「手紙に書いてある」


とりあえず目的はわかったものの、その中身はわからずじまいで、ゆっくりと思案したいところなのだが


「あたし達の足だと1ヶ月くらいで軽く着けるけど…ねぇ?」
「スノウの足だとなぁ。今すぐ出ないと危ないかもな」
「えっ…でも無理して歩かなくても途中村から王都へ農作物を乗せる荷馬車に乗せてもらえばいいんじゃないの?」
「あんたバカなのアホなのどっちなの?王都へ向かう荷馬車は常にぎゅうぎゅうに物がつまってんのよ?それに乗り合いなんかしたら少ない財布からお金出さなきゃいけないのよ?常識でしょうがっ」


あ―――…そうだった。
あまり村から出たことないから忘れてたけどいつも向かいのおじさん家の農家から出ていく荷馬車の中は一杯一杯だったっけ。

同学年で友達のマリーは隣の隣の村まで行く途中で荷馬車に乗り合いしたら結構な額を要求されたと憤怒して学校の机をバンバン叩いてた記憶がある。
それに村に馬はいるが私自身乗れないし。
マズイ。


「あーなるほどねぇ。結局あたし達スノウのお守り役ってこと?お守りっていうか子守?」


ニヤニヤしながら、物凄く馬鹿にした顔で此方を見ながら溜め息をつく彼女。
くそ、何も言えない‼


「俺は旅っていうか冒険みたいで楽しみだけどな!スノウとも久しぶりに遠くに行けてワクワクするぜ」
「本当っ?ディオン!あぁやっぱり私の王子様だわっ大好き‼」


そんなフィーラとは逆に無邪気で、でも男らしく綺麗な微笑みに、私はぎゅ〜っとなった胸と共にディオンの腕にしがみつく。
あそこの二重面相カマ野郎なんか屁でも無いくらいに、今私の心が浄化された気がする。…ディオンセラピーと名付けようか。


「もうあんなオカマ置いて二人で行こ「そこ、離れなさいっての!」


ドゴッ ベリッ
金髪の美人が鬼の形相で迫ってきて肩を掴まれる。


「痛いわね!何すんのよ」
「それはこっちのセリフよ!」
「フィーラが一緒に着いてくるの嫌そうだったから
二人で行こうとしたんじゃない!」
「なんでそうなるのよ!?」
「だってそうでしょ‼」
「悪いけどあたし一言も嫌なんて言った覚えないわよ」


「は?」
「あんた本当バカね。第一ディオンとスノウを二人きりに、あたしがさせるわけないじゃないの」


ニタリと微笑むフィーラ。果たしてこれは微笑むという表現で合っているのか。未だに肩は掴まれたままでフィーラの金の髪から覗く翠青色の瞳とかち合う。

そしてディオンに聞こえない程の声で耳元に囁かれる。



「抜け駆けなんて」

「許さない」

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