恋敵と私と彼

□形勢逆転
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走っていると村の出口にディオンが旅支度を終え、私達を待っている姿が見えた。

「ディオン遅くなってごめんなさいね」
「ごめんねっディオン!また、待たせっフゥ、ちゃって」

ハァッ ハァ――…フゥ。

あれから結構な速さで連れられた私。私はこんなに息絶え絶えだというのに何故こいつは呼吸の乱れが一つもないのか。

「まぁ気にすんなって」
「もぅ!ディオンったら本当に優しいのねぇ。どこかの誰かさんとは大違いだわ〜」

そう言いながらフィーラは少し遠くにいるディオンの側に駆け寄り、腕に自分の腕を絡めてこちらを自慢するような目で見る。今すぐひっぺがしてやりたいが、前述の通り息絶え絶えなのである。

暫くフゥフゥしていると隣に影が、見上げるとそこには私の王子様。紫色の瞳が真っ直ぐと私を見ている。なんとディオンがフィーラを撒いて私の隣へやって来たのだ。「酷いわっ!」と声が聞こえるが、私からすればザマぁみろだ。

「大丈夫かスノウ?」

いつもの笑顔で私の背中に手を回して心配してくれている王子様ディオンが今隣に――ふっフフッ。こんなっこんなフードなんか被ってらんないわっ。雰囲気台無しよ!バサッとフードを外すスノウ。もはやフィーラとの約束など守る気ゼロである。

「ありがとうディオン!」

ディオンの目を見ていつもの倍以上に微笑んで魅せる。笑顔は女の化粧だといつか近所のお姉ちゃんが言っていた気がする。だからちょっとでも可愛く見えますように!

スノウに笑いかけられたディオンは、紫に光る深い瞳を少し見開くとちょっと照れたように、

「スノウはなんか可愛いな」

と言いニッと耀かしく笑う。
その姿はさながら夢に見る私の王子様。

「ぇ、」

と今度はスノウが照れる番だ。全身の血が顔中に集結しているのがわかる。

うわぁっ。あんなに近くで背中に手を回されて可愛いなんて言われたの初めてだわ!ねぇこれってもしかして、もしかしていけるんじゃないの!?

ドキドキ ドキドキ
ドキドキ ドキドキ

「ね、ねぇ「チョォォーップ‼‼『ゴンッ』」い゛ったあぁぁいっ!‼」

フィーラの鉄拳が飛んできた。心臓の音が煩すぎて奴の足音が聞こえなかったわ‼叩かれた私は彼女をキッと睨む。

「あんた何フードとってんのよ!外しちゃ駄目って言ったでしょうがっ」
「まだ村の中なんだから良いでしょう!?てゆーか今の凄く痛かったんだけど、たんこぶできたらどーしてくれんのよ‼」
「今のはちょっとやり過ぎだぞフィーラ。スノウに謝れ」

ディオンが庇ってくれてる!
対するフィーラは悪びれた様子はまったく無い。何故なら約束を破ったのはスノウのほうだ。謝る義理なんぞ持ち合わせていないのである。

「人拐いに遭うからあたしはフードを被っておきなさい!って注意して約束させたのよ?人の忠告無視してフードを外したあの子が悪いじゃない‼」

だからまだ村の中だろうにと呆れるスノウ。
しかし隣のディオンから無言でジィっと見つめられている。いったいどうしたというのか。
ジィ…

「デ、ディオン?」
「…………」
「ディオ〜ン?」
「いや、そうだよな」
あれ?
「村の中とは言っても出口だし、外から丸見えだもんな」
……あの?

クルッ
フィーラを見るディオン。

「悪かったフィーラ。良く考えれば危険だよな?
スノウは自覚が無いからお前言い聞かせてたんだよな、ごめん」
「良いのよ全然。子供の躾は慣れてるわ」

ちょっと待った。なんだこの展開は。

「いいかスノウ。外に出れば俺たち3人だけだ。そしてお前は人拐いの滑降な餌になるのは火を見るより明らかだ。そんな真似させないように俺たちは守るけど、なるべく危険は回避したい」
「う、うん」

肩をガシッと掴まれ言い聞かされている。

「だから絶対にフードは被れ」
な?

と赦される。
こんなの答えは一つだろう。

「はい!」

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