恋敵と私と彼

□仲直りは
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さぁ、あのわけのわからないフード騒動から約一時間。
つまり村を出て一時間が経っている。今私たちは王都への安全な道を通るため、遠回りだがベルゼルク通りというところを歩いている。

王都への道のりは長く、今歩いているベルゼルク通りを1週間かけてぬけ、ユール道という砂漠をまた2週間かけてぬける。ユール道を過ぎたら山間部に入るのだが、これがまた長く四週間はぬけるのにかかってしまう。
そして、やっと山間部をぬけた先に王都への真っ直ぐな道が開かれるのだが…。

はぁ。と思わずため息が出てしまう。本当に程遠いのだ。でもまぁ、ただ道と説明したが、途中途中でちゃんと大きな街があるし、宿屋もそれなりに点々とある。距離だけで言うなら私達の村から西へ真っ直ぐ行けば王都に直ぐ着くのだが、行かない理由は進路が道無き道状態なのと、魔物のはびこる森が邪魔しているせいなのだ。
そんなとこ通るなら私はどんなに遠くても安全を取る。
ディオンはその森を見たとたん冒険者魂に火がついたのか、その道を行く気満々でさっそうと歩いていこうとしたのだがフィーラが、

「いやよ!あんなとこ、気持ち悪いったらありゃしないわ。それにペンギン娘がいるのを忘れて?私達だけだったらいーけど、足手まといが一人いるんだからやめてちょーだい」
「ちょっとペンギンって何よ‼」
「え、あんたペンギン知らないの?」
「そんなの知ってるわ!」
「あら良かったわ、そこまでお馬鹿じゃなくて。ディオン聞いてる?あの道は却下よ」
「はぁ…わかったよ」

つまんねーのー、と愚痴るディオンにごめんと謝るスノウだが内心助かった。そんなことフィーラには言ってやらないけどね。
あんなとこでいくら二人が守ってくれると言っても私は生きた心地が欠片もしないだろう。

というかディオン、なるべく危険を避けたいと言っていた割には危険に飛び込んで行く気満々だったよね。まぁそんな凸凹な所もディオンの可愛いところなんだけど。

そんな感じで今は安全なベルゼルク通りを進行中だ。

「ねぇディオン、今日はどこの宿屋さんに泊まるか算段はついてるの?」
「俺一回しか村の外でたことねーからよくわかんねぇんだよ。フィーラならわかるよな?」
「ええ、王都へ何回も行ったことがあるからそこの能無し娘よりかは随分役に立つはずよv」
「一言余計なのよ‼」

あたり前じゃない、
一度だって私は村の外に出たことがないんだから!

…しかし、と前を歩く二人を見つめる。
視界に直ぐにおさめるのは大好きなディオン。
服装は上に黒の革シャツ、下は動きやすい魔物の毛皮で出来た黒のパンツのような物で足首に少しゆとりをもたせたようなデザイン。背中には大きな魔剣を下げていて腰のベルトには予備の小さな魔剣たちがぶら下がっている。黒髪、紫瞳の造形美はだれがどうみても格好い勇者様って感じで、もう惚れちゃう!…いやもう惚れてるけども。

あぁでも本当に夢みたい。こんな一日中、しかも1ヶ月以上も一緒だなんて。ずっと旅が終わらなければ良いのになぁ…はぁ。
そしてそんなディオンの隣にいる無駄に背の高い彼女。

…ま、いっか。
視界にあまり映したくないし。

そんなことを考えて二人の後ろを歩いていたらいつの間にやら距離が離れていたらしく、前を向くと二人の姿が小さい。急いで二人に追い付こうと足を速めると前からどちらかが走ってくる。
もしかしてディオン?
わざわざ戻って来てくれ――「このペンギン!」


ジィーッ

目を細め良く見てみると、金髪美女が髪を振り乱して此方へ駆けてくるではないか。思わず逃げたくなるが一歩下がるまでで踏みとどまっておく。だってそんなことしたって無駄だからだ。

そしてとうとう彼女は私の所へと着いてしまい、走って来た為か金髪の乱れ髪を片手で纏めて肩に流し息をつく。上に着ている白く何気に高級感あるシャツは胸元がチラリと開いていて私には不快でしかない色気が漂っている。
下は細めの黒いパンツを履いており黒のブーツで足は締められていて…

悔しいが外見に関してはこのオカマはパーフェクトである。

「まったく、向かえに戻って来てやったのにあからさまな顔するんじゃないわよ」

おっといけない、顔に残念臭が出ていたか。

「ディオンは?」
「…ディオンなら先に今日泊まる宿に向かってもらったわ。残念だったわね」
「……」

そっかぁ、でもディオンに向かえに来られてたら逆に申し訳ない感でいっぱいだったかも。…いやでも、それはそれでウハウハに嬉しい気分になっていたのには違いないと思うけどね。
まぁフィーラにも一応お礼を。

「フィ「残念だったわね?どうせわざと遅く歩いてディオンの気を引きたかったんでしよ?」
「は?」

なにそれ。冷めた目でスノウを睨むフィーラは何故だかわからないが凄く怒っている。

「おあいにく様、そうはあたしがさせないんだから。馬鹿じゃない」
「ああ本当天然だと思ってたら意外に腹黒かったのね?でもそんなんじゃディオンは振り向かないわよセコい女、最低ね」

え、なな何?
なんでそんなこと言われなきゃいけないのだろう?

いつもの言い合いとは違う。いつもはこんな一方的な言葉を吐くことはなく、お互いにそこは確かめ合ったわけではないが相手を本当に傷つけない範囲で言い合ってきた筈だ。だからわからない。

え、ちょっ…目頭が熱くなってきた。やだっこんなことで…ヤダヤダっ。格好悪い!私、私――

「…っ」
ポロッ。
「あんたは本当にっ――…っえ?」
ポロポロ。
「っう、ひっぅく …っ」
「えっ、ちちょっと、ま待って」

さっきまで怒っていたフィーラが慌ててオロオロしだし、焦りながらも自分のバッグからハンカチを取り出してスノウの目下に当てる。

「ごめんっ、」
「っふ、…ぅ」

ごめんという言葉にまた何故か目頭が熱くなってくる。
あーもう、なんで泣いてるのよ自分!格好悪いどころか情けないじゃないの‼こんな敵の前でビャービャーと。

「ぅぅ…っく、っふぅ」
「本当にごめんなさい、言い過ぎたわ」
「んっ…ぅっふ、」
「っ…お願いだから泣き止んで?あたし、昔からあんたに泣かれると弱いのよ」
「…っうっん」

目を開けてフィーラのほうを見ると、何故かフィーラのほうが泣きそうな顔をしている。

「ごめんね。だってせっかくあたしが戻ってきたのにあんまりにも残念な顔されたからついね、カッとなっちゃって。あんな言葉吐いちゃったわ」
――――本当ごめんなさい。
「いや…」

私にも非はあるのだ。戻ってきてくれたフィーラに対してあの態度はなかった。

「フィーラ」
「何?」
「っごめんなさい」
「うん」
あと
「ありがとう」

翠青色の瞳が一瞬見開き、そして弧を描いた。


気がつけば夕陽が沈もうとしているし、もうそろそろ宿屋へと向かわなければ。フィーラは私の涙を拭いた後ハンカチを荷物の中に戻し、ディオンが向かった方向へと顔を向ける。

「さぁこれで仲直りはお仕舞いにして、ディオンが待ってる宿屋まで速く行くわよ」
「うん」
スッ――
「?」
「何してるの?はやく繋ぎなさいよ」
「え、でも」

前を行くフィーラが後ろ手を私へ差し出す。

「迷子になられても困るのよ」
「ならないもん!」
「ったくもぅ、いーから繋ぎなさい‼」

ぎゅっ。
意外と温かい手。そして私よりも倍の手のひら。
変な感覚だわ、フィーラは私より女の子なのに。

「フィーラの手あったかいね」
「あんたの手が冷たすぎるのよ」

宿屋までの道を二人手を繋いで歩く。
視界に入るキラキラと輝くフィーラの金髪が、夕陽に照らされて綺麗だと素直に感じ、そんなフィーラの背を見てふとあることをちょっと思ってしまった。

「…ぃ…みたい」

その瞬間ピシリ、とフィーラが止まった。
何故か顔を青くして。

「…あんた…今なんて言った?」
え?
だから
「お姉ちゃんみたいだなって?」

するとフィーラはまた一段と顔を青ざめる。

「フィーラ?」
「っ冗談じゃないわ!誰が誰のお姉ちゃんですって!?あんたが妹なんてあたしは冗談でも嫌よ」
「なっ‼そこまで言うことないじゃない」
「いーこと?これから先あたしの事をお姉ちゃんみたいだなんて1度でも言ったら絶交ですからね‼」
「なんで?ある意味褒め言葉じゃないのっ!」
「全然褒め言葉じゃないわよっ寧ろ最悪よ‼」
「酷いわ!」
「なんとでもおっしゃい‼」

ギャー ギャー

それから二人の口論は宿屋に入ってディオンに怒られるまで続いた。

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